人格障害(パーソナリティ障害、PD)の中でも、境界性人格障害(BPD)と呼ばれる症状に苦しむ人たちは、自分がなぜこんなに苦しいのかよくわかっていない方も多いと思います。

 

では、その苦しみの理由を知るためにはどういったことが必要なのでしょうか?

 

心理学的な観点から言うと、まず「自分が心の底では何を欲しているのか?」について考え、知る必要があります。

 

具体的な方法としては、心理カウンセリングなどを通して自分と向き合い、過去にさかのぼってじっくりと考えることでその答えが見えてきます。

 

実は、境界性人格障害のほとんどのケースにおいて、その苦しみの裏側で「愛を欲する強い感情」があることが臨床研究からわかっています。

 

そこで今回は、境界性人格障害による苦しみと愛情にはどういった関係性があるのかについて、過去の臨床をもとに皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

 

愛されたい

一般的に愛情とは、「相手に向けるもの」と「人から与えられるもの」とに分けられると思います。

 

境界性人格障害の人たちが、その心の根底に抱えているであろう愛情へのこだわりは、おそらく後者の「人から与えられるもの」に分類されるでしょう。

 

「万人に愛されたい」「親に愛されたい」「彼氏(彼女)に愛されたい」

 

このような感情が自分でも自覚していないくらい根深いところにあって、望む愛情を得られないために様々な症状や問題行動となって表に現れ、本人やその周囲の人たちを苦しめています。

 

このような感情の存在を認識できていないために、自分がどうして苦しんでいるのかわからないということになるのです。

 

皆さんも「人から愛されたい」という感情はある程度理解できると思います。

 

しかし人格障害のような精神疾患を抱えた方にとっての”愛への渇望”は、言葉ではとうてい言い表せないほど強烈なものなのです。

 

それこそ、「死ぬほど愛されたい」といった表現が適切かもしれません。

 

ここまでになってしまう背景には、過去に愛情が十分に得られなかった体験などが大きく影響していることが挙げられます。

 

 

心に刻まれた過去の体験から、今現在においても愛情は得にくい(もしくは得られない)ものとして認識してしまっている傾向があります。

 

そのため、苦しみから解放される(人から愛情を得る)には手段など選んではいられないという過激な考えに走ってしまうことさえあるのです。

 

例えば、無償の愛など存在しないと強く思い込んでいる人が、自分へ愛情を向けさせるために他者を巧みにコントロールし、自分の意のままに操ろうとすることがあります。

 

他にも、自分が愛情を得るに値しない無価値な人間だという絶望感を抱いている場合があります。

 

そうした人は、そのモヤモヤした気持ちを紛らわすために周囲の気を引いて同情を買おうとするあまり問題行動に走ってしまいます。

 

さらに重症化してしまったりすると、自傷行為や自殺企図、OD(薬物の過剰摂取)や性行為など、間違った自己アピールはどんどんエスカレートしていくことも懸念されます。

 

こういった方たちには、もうひとつの共通点があることもわかっています。

 

それは、他者からいつか見捨てられてしまうかもしれないという大きな不安を常に抱えていることです。

 

この不安が解消されない限り、周囲にいる人たち(家族、友人など)は、当事者たちがその不安を埋めるために起こす様々な問題行動へと常に巻き込まれるようになります。

 

安心を与える

望む愛情が得られないという点に関しては、当事者たちが置かれている環境にも問題があると言えるでしょう。

 

そういった方たちは、環境を変えることによって症状や問題が大きく改善することもあります。

 

実際に、境界性人格障害の症状で悩まれている当事者を当施設で預かり、施設の中で理解のある人間たちに囲まれた生活を送ることで、安心や愛情を感じることが多くなったという感想を耳にします。

 

そうして、荒んだ心が少しずつ癒され、満たされていくことで症状が寛解されたケースも数多く確認しています。

 

寛解へと至った経緯には、愛情が思っていたよりも簡単に得られるもので、今まで必要のない努力をしていたことに気づけたことが一番大きかったと言えます。

 

施設の用意した「気づきの場」を上手に活用し、そうしたことを実感できたことによって、本当の意味での”安心”を得られたのではないかと思います。

 

たとえそれがささいな感情であったとしても、相手を想い、寄り添ってあげれば、きっとお互いに愛情のようなあたたかなものを感じとることができるはずです。

 

一歩を踏み出そう

まず、当事者が自分の心の奥底(深層心理)には何があり、何を欲しているのかを知ることから回復への道が始まるということを説明してきました。

 

しかし、この最初の一歩の作業は言うほど簡単なものではなく、時間と労力を必要とします。

 

まず精神科医や心理士のような専門家との支援のつながりを持とうと思っても、どこに問い合わせれば良いのかわからなかったり、数が少ないために見つからないことが問題としてあります。

 

そして、ようやく見つけた後も、通院やカウンセリングを継続して受け続けるには長期の忍耐とお金が必要とされる大変な作業が待っています。

 

それでも、ぬぐい切れない不安感や絶望感など、そうしたものをどうにかしたいと強く願うのであれば、大変だとわかっていても今すぐ自分のために動くべきであると提案します。

 

「愛情とは、こんなにも簡単に得られるものだったんだ」と実感できるその日は必ず訪れます。

 

どうか諦めずに一歩を踏み出してみてください。私たちはそんな方たちの力になりたい一心から、日々支援の手を差し伸べ続けています。

 

※関連記事:境界性パーソナリティ障害者の自立への希望

※関連記事:「自分が大嫌い!」境界性パーソナリティ障害

※関連記事:境界性パーソナリティ障害を抱えた卒業生からの手紙