「娘は感情の起伏が激しく、自分でコントロールができない」

 

「息子は一度怒り出すと親でも手に負えない」

 

当施設へ寄せられたこのようなご相談は、原因を辿ると人格障害(パーソナリティ障害)、特に境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)に多く見られる代表的な症状であることがわかります。

 

このような症状を見せるお子様は、ことあるごとに親に向かって「全部お前のせいだ!」と責任追及したがる傾向にあります。

 

さらに、火に油を注ぐまいとなるべく相手にしないよう振舞う親には「また逃げるのか!」と怒鳴りつけ、執拗に引き止めたり説教を始めたりするのです。

疲れた母親

 

そんな理不尽な怒りや被害妄想の矛先を向けられ続ける親は、いつしか精神的に追い詰められて限界を迎えてしまいます。

 

もしも日常的にお子様からこのような怒りを向けられているのであれば、早めに最寄りの精神科病院か当施設のような専門家へご相談されることをおすすめします。

 

当施設の見解として、このような症状をお持ちの方は家庭に限らず職場や学校などでも人間関係のトラブルが絶えないため、常に不満やストレスを感じている状態であることが予想されます。

 

これは怒りがさらなる怒りを呼ぶ「負のスパイラル」に陥っているようなもので、本人も自身の苦しい境遇から抜け出せずにもがいているのです。

 

今回の記事では、人格障害の専門である当施設の臨床記録の中から「怒り狂う子供を入院させてみたものの、退院後も親への怒りが収まらない」ケースについてご紹介してみたいと思います。

 

同じようなケースで悩んでいる方や、今もお子様からの怒りに苛まれている方へ、対処法の目安として参考にしていただければ幸いです。

 

【目次】

1.入院体験が怒りを増長するケース

2.怒りと依存を併せ持つ子供

3.入院と入所では大違い

1.入院体験が怒りを増長するケース

SOS

 

境界性人格障害には「感情のコントロールが苦手」という側面があり、一度怒り出すと本人には抑えが効かず、激しい攻撃の矛先を周囲に向けることも多くなります。

 

落ち着きを取り戻せたとしても、我に返った後はひたすら自分の行いを後悔するということを繰り返し、大きな苦しみを感じているのです。

 

この症状の原因には過去のトラウマによるフラッシュバック、日常生活・人間関係からくるストレス、見捨てられ不安、孤独、空虚感などが考えられ、どれも容易に取り除くことができないものばかりです。

 

心配する周囲をよそに、「自分が今こんなに苦しんでいるのは家族のせいだ!」と怒りをあらわに暴力を振るわれたり、自身を傷つけたり(自傷行為)することもあります。

 

やがてこれらの問題行動は手に負えないレベルにまで発展し、たいていの場合は精神科病院へ入院することをすすめられます。

 

ところが、肝心の本人に治療のための通院や入院をすすめてみても、「自分は病気なんかじゃない!」「病気なのはお前たちの方だ!」と、拒絶されてしまうことがほとんどです。

 

そして、治療に踏み出せず足踏みしている間も周囲へ向ける怒り、説教、自傷他害は日に日にエスカレートしていきます。

 

そうなってしまうと、いよいよ最終手段として残されているものは「医療保護入院」「措置入院」という半強制的な入院です。

 

これらはどういったものかというと、本人の同意を得た入院(任意入院)が難しく、かつ医療と保護の必要がある場合や自傷他害の(自分や他人に危害を加える)おそれがある場合に限り、家族や医師、都道府県の権限において入院させることができる制度です。

 

病院

 

これらの入院制度を利用することは、危険が差し迫った局面での一時的な回避手段として非常に有効であると言えます。

 

しかし残念なことに、この入院制度は問題の根本的な解決を保障するというものではありません。

 

しかも入院中は(症状の度合いによって)ある程度制限された生活を送ることは避けられず、あまりにひどい時は閉鎖病棟などで隔離、拘束されてしまうことすらあります。

 

そのため、症状の改善を待たずして退院を懇願する方が非常に多くいらっしゃるというのが現実です。

 

実際、退院するためには本人や家族の意向で退院請求ができてしまうため、半強制的に入院させられた不満やストレスを抱えたまま退院し、返って強い恨みや怒りを買ってしまうといったケースが後を絶ちません。

 

過去の体験がトラウマとなり、自分を病院へ放り込んだ身内に対し「見捨てられた!」「突き放された!」との勘違いからより一層の責め苦を強いられるようになったという話も多く耳にしています。

 

そうした退院後のトラブルを抱えたご家族が当施設へたどり着き、「どうか助けてください…」と深刻な面持ちでご相談を持ち掛けられることも少なくないのです。

 

2.怒りと依存を併せ持つ子供

こぶしを握る男性

 

怒りの矛先が常に親(家族)に向けられている場合、状況はかなり複雑かつ深刻であることが予想されます。

 

例えば、境界性人格障害の方などは同時に「うつ病」「不安症」といった他の病気を抱えていることも多く、その影響から怒りをぶつけてくる反面でひどく依存もしている(心の拠り所としている)傾向があります。

 

このような関係にある親子が、離れられずいつまでも一緒に生活していると双方の心が休まることはいつまでもありません。

 

突然怒鳴られたり、手をあげたりしてくることがあるかと思えば、急にしおらしくなって「見捨てないで」とすがりつくように泣き出したりと、我が子のコロコロと変わる態度に延々と振り回され続け、やがて疲弊しきってしまうでしょう。

 

こうした依存関係(共依存)にある親は、我が子かわいさに離れることができないばかりか、「かわいそうだから」と入院や施設へ預けることを避け、自分たちだけでどうにかしようとして手詰まりになっていることも珍しくありません。

 

私たち専門家は、その先に待っている親子共倒れという最悪の結末を知っているからこそ、こうした誤った行動だけは絶対に避けてほしいと呼び掛けています。

 

3.入院と入所では大違い

病院か施設か

 

先に述べてきたような親子が当施設へとご相談に来られた際には、状況打破のために「施設入所」が必要であるとご説明しています。

 

すると必ず、「距離を置くことが必要なのは理解できるが、施設入所と病院へ入院ではいったい何が違うのか?」というご質問をされます。

 

まず、当施設へ入所することと先に述べた入院制度との大きな違いは必ずお子様ご本人にもご納得いただけるよう説得・同意をいただくという点です。

 

当施設では本人の意思をないがしろにした半強制的な入所をさせた場合、不要な反感を買ってしまうであろうことは十二分に承知しています。

 

そのため、お子様本人と親御さんには当施設の家族相談員を交えてきちんと話し合ってご理解を得ることが入所の前提条件となっています。

 

説得が困難なお子様に対しては、その道のプロである相談員が一役買ってくれますので家族だけでは説得できなかった場合も安心してお任せいただけます。

 

泣く娘と父親

 

もう一つ大きな違いは、施設にいながらも自由で解放的な生活が送れるという点です。

 

当施設最大の特徴であり、病院や他の施設とは一線を画す取り組みが「解放的であること」なのです。

 

利用者様全ての心にゆとりを持っていただくための取り組みとして、当施設では個室を与えたうえで外出や外泊も許可しています。※保護管理責任のために届け出はご提出いただきます。

 

この取り組みによって住む環境こそ違えど、ご自宅にお住いの時と比べても大差ないくらい自由にお過ごしいただけるよう、解放的な生活を保障しています。

 

しかし世間一般的なイメージは「どこの病院や施設にも厳しい外出制限や規則があることが当たり前」という認知がほとんどです。

 

そのせいか説明段階では当施設が誇る「自由さ」についてあまりピンと来ないという方も多く、非常にもどかしく思っています。

 

当施設が「施設入所」という言葉ではなく「宿泊」という表現を使っているのは、少しでも堅苦しいイメージを無くしてアットホームな雰囲気が伝わるようにとの理由からです。

 

施設中庭

 

さらに、人格障害の専門として「症状や特性への理解」「有効なケアの方法」「心との向き合い方」などを熟知した心理士を中心としたスタッフたちで構成された「見守り態勢」によって、安心してお子様を預けることができるようにもなっています。

 

過去に「病院や他の施設では望む結果が得られなかった…」という方にこそ、当施設独自の魅力的なサポートを一度お試しいただければと思います。

 

最後になりますが、今回テーマとして取りあげた「怒り」という感情には、必ず「伝えたいメッセージ」が隠されています。

 

まずは本人たちが何を伝えようとしているのかを知ろうとする姿勢を示すことが、支える立場である私たちや親御さんに求められる心構えであるということを覚えて、実践してあげてください。

 

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