皆さん、こんにちは。
私は20年以上もの間、パーソナリティ障害を専門領域として活動していますが、当初は、個別の心理療法(カウンセリング)に重点を置き、様々なケースに対応してきました。

ところが、長年パーソナリティ障害の心理ケアに携わってきた中で、1対1のカウンセリングだけでは限界があることに気が付いてきました。

もちろん、カウンセリングだけで回復してきたケースも多数みてきましたが、パーソナリティ障害者にとっては、支援者以外で、同じ悩みや心の痛みを抱えた者同士の横のつながり」が回復には必要不可欠であることを実感し、現在の宿泊型心理ケア施設を設立したのです。

今回は、どうしてパーソナリティ障害者にとって集団生活・集団療法が効果を示すのか、そのカラクリを少しだけご紹介いたします。

多様性のある関係の中で、問題解決能力を育てられる

当センターの利用者は、性別や年齢層も幅広く、その中では、当然、相性が合うメンバーがいたり、合わないメンバーがいたりと様々です。

この複数の方々との関係性の中で、色々な立ち位置や役割関係などを体験することで、「自分というイメージ」を確立していけるようになります(☜これをアイデンティティの確立といいます)。

多くの方々と、多様な関係性の中で付き合うことは、自然に「対人関係の質」を身に着けることになります。

また、自由で開放的な環境の下、共に遊んだり、セラピーに参加したり、時にはお互いにぶつかり合うことで、さまざまな問題解決策を試すことができ、対処能力も育てていくことが出来ます。

当センターには、OBやOGと呼ばれる卒業生(すでに社会復帰をされている方)の方々も時々センターを訪問してくれます。

こういった方々との出会いや関わりも、自分の将来像へのイメージにつながり、自己イメージの多様性になってくるのです。

要は「こういう自分もあっていいし、ああいう自分もあっていい。こんな生き方もあるし、そういう生き方もある」という風に、固定された自己イメージから解放され、自由で柔軟な自分を発見していくことができるようになるのです。

主体性が育つ

当センターでの集団生活では、自分にとって必要な他者を選んで関係を結ぶことが出来るようになります。

皆と仲良くしようとするのではなく、自分に合った人を選んで関係を結べるようになる力が、パーソナリティ障害者の回復には必要です。

これを「社会性」と呼びますが、この力が育っていないと社会の中で生き抜いていくことは難しくなってしまいます。

自分からその状況に見合った相手に近づくことが出来たり、合わなければ避けることもできる、こういう力が必要なのです。

これはただ「好きか嫌いか」の二極化で人を選んでいくのではなく、しっかりとTPOをわきまえた上で、必要に応じて周囲と接していく柔軟性を意味しています。

視野が広くなり、客観的に見る力が育つ

パーソナリティ障害者の親子関係では、母子密着型のケースが多数見受けられます。

これは、何を意味しているかというと、母親との二者関係では、もし母親に対して不快な気持ちになったときに、気持ちを押し殺すか、または我慢するしか方法がなく工夫することもできません。

また、母親と意見が合わなければ、「自分が間違っている。自分が悪いからだ」と容易に思いがちです。

しかし、その場に色々な価値観を持っている人がいてくれれば、自分なりに判断することもできるし、周囲の意見を参考にすることで物事を客観的に捉える力が育ってくるのです。

こういった視点が母子分離を促し、「お母さんの言っていることも一理あるかもしれないけど、全てが正しいわけではない。こういう考えもあっていいと思う」などと、より柔軟な発想が持てるようになるのです。

自分の決断と責任でやったことは失敗しても自分で納得がいきます。

「言われてやる」という姿勢は、上手くいかなければ他人の責任に出来るし、被害者意識に繋がりやすくなってしまうのです。

以上が、パーソナリティ障害者にとって集団生活・集団療法が効果を示してくる背景になります。

自分の背中のホクロは自分では見えませんが、相手の背中のホクロは簡単に見えます。

様々な関係性の中でしか気づけない事柄や学びが集団生活の中には隠れているのです。