心に不調をきたしているような方は、そのつらさや苦しさから一刻も早く解放されたいと願い、病気の原因、症状、対処法、回復、克服について必死に知ろうと手を尽くすでしょう。
これは人として当たり前なことであり、それについて誰も責めたりはしません。
ただ、支援者の視点から申し上げますと、”それだけ”で終わってしまっては少し残念に思える側面があります。
これは心の不調だけに限った話ではありませんが、”不調になってみて初めてわかるものがある”ということをご存じでしょうか?
病んでしまっている時になかなかそういったポジティブな発想が浮かばないことも理解できますが、これは等しく全員に与えられたチャンスなのです。
そこで今回は、心理障害を抱えて心の不調に陥った娘さんとその母親の話を例として、「心理障害になったからこそ得られた気づき」について解説したいと思います。
まずは自分について
心理障害に至るには原因があり、何らかの問題があって発症するということは間違っていません。
その障害を治すという意味では、原因を知っておくことも大切なことでしょう。
ですが、ここで少し状況を整理してみたり、視点を変えてみることができると、今まで気づかなかったような思わぬ発見に出会えます。
今回ご紹介するご家族の娘さんは、心の不調の原因は心理障害によるもので、「自分は少しおかしくなっている」という認識を持っています(病識がある)。
では逆に、おかしくなっていない「普通の自分」とはどういった状態を指すのでしょうか?
普通の生活ができて、普通の考え方をして、普通のしゃべり方で、普通の行動をとり、普通の家族関係に恵まれて…
などと、これらについて深く考え続けていくと、次第に”あること”が理解できるようになります。
それは、娘さんが今まで普通だと思っていたことはとても得難く、かけがえのないものであったということです。
また、心理カウンセリングを受けることで、心のより深い部分にある「それらを切望し、心の底から欲していた自分」が、心のより深い部分にあることを知ることができます。
これらに気づくということは、「自分自身」について深い理解を得たということにつながります。
そもそも、心理障害でもなんでもなかったらこんなことについて深く考えもしなかったでしょうし、もしかしたら一生気づくことはなかったかもしれません。
自分について理解を深めていくことは人としての成長を促し、人格形成に大きな影響を及ぼします。
今後の人生においても、間違いなく貴重な財産となってくれることでしょう。
人間関係について
娘さんの心理障害の原因は、主に母親との関係が大きく影響していることは周囲から見ても明らかでした。
娘さん自身も母親との親子関係に原因があると考え、「母親を更生しなければ自分は治らない」と思い込んでいました。
しかし、このように「他人を変えよう」とすることは非常に難易度が高く、ほとんど実現不可能と考えてもらってもかまわないでしょう。
それでもずっと”原因である母親”を変えよう(変えたい)と思い続け、あの手この手で訴えることをやめませんでした。
その果てに、変わらない(変えられない)母親に疲弊していき、脳裏には次第に「諦め」の文字がよぎるようになっていきました。
意外と思われるかもしれませんが、実は娘さんのこの状態こそ回復に近づいているサインだったりします。
結果として、当初の目標であった「母親を変えること」は実現していませんが、自分が折れ始めたことによって強かったこだわりが薄れ、訴え、不満、愚痴、ストレスといったものが軽減されていったのです。
いわゆる「自分の方が変わってきた」状態になってくると、次のことに気づくチャンスが訪れます。
それは、「他者を変えることは難しいが、自分を変えることで解決することがある」という一つの真理とも呼べる概念です。
この考え方が受け入れられるようになると、その後の人間関係において、上手に、ストレスなく立ち回ることができるようになります。
肯定してみよう
例に挙げた娘さんと母親の関係から見えてきた発見の他にも、心理障害はまだまだ伝えきれないほどたくさんのことに気づかされる可能性を秘めています。
これは人がそれぞれ全く異なる人生を歩んでいるのと同じく、その人ごとに全く違う発見があるためです。
ある人は、ずっと親に対して「良い子」を演じてきたために、いつしか無理がたたって調子を崩されました。
その人は良い子を演じていたことが原因であったとわかると、同時に”ありのままの自分”でいてもいいということに気づくかされました。
またある人は、小さな時から抱えた発達障害によって、ずっと不自由な思いをしてきました。
良いことなんか何もないと思っていたその人は、発達障害だからこそ得られた自分の個性(人よりも突出して優れた点)があることに気づき、それを武器に生きていく術があることを知り、希望を取り戻しました。
このように人の数だけ発見があると言っても、障害や病気などに対して否定的になって落ち込んだり、ネガティブな気分になってふさぎ込んでいては、”得られるもの”が目の前にあっても見つけられなかったでしょう。
考え抜いた先にもしも得るものがあった時、初めて障害や病気を肯定的に捉えることができるようになり、未来への希望がはっきりと持てるようになることは間違いありません。
仲間と一緒に考える
どんな悪い状況でも良い気づきや得られるものがあるということはこれまでにも説明して参りましたが、独力でそこにたどり着くのはやはりとても難しいことであると思われます。
そんな時、助けになってくれるのが”理解者”という助っ人の存在です。
その理解者となる人にはいくつかの条件があります。
それは、障害や病気について知識や理解があり、愛情を持って、時には共感し、時には叱ることができるというものです。
当施設ではそういった存在として、「心理士を中心としたスタッフたち」や「同じ悩みを抱えた仲間(同期)たち」との関わりを大切にしています。
そのような環境に身を置くことで、独力では難しいような”気づき”にもいち早くたどり着き、快方へと向かうきっかけづくりができることが長年の臨床経験からもわかっています。
自分の抱える心理障害に対して、当初は否定的だった方たちが、時間の経過とともに少しずつ今の状態を受け入れ、肯定的な考え方が自然とできるような働きかけも心得ています。
心の不調などに一人(あるいは家族だけ)で悩まれている方がいらっしゃるようでしたら、専門家に頼るという選択肢があることを知っておいてください。
当施設へお問い合わせいただければ、専門家としてきっとお力添えできると思います。