皆さん、こんにちは。
シリーズブログの第一部「小さな気づきで全てが変わる~Small changes make
a big difference」12回目になります。
今回は、パーソナリティ障害を抱えるみなさんが比較的よく訴える内容である「完璧主義」と「高すぎる期待」について前半で解説し、後半では卒業生(女性)からいただいた手紙の内容を一部ご紹介しますので、参考にしていただければ幸いです。
完璧主義と高すぎる期待の関係性
これは例えるなら、「一旦踏み込んでしまったアクセルにブレーキがまったく利かなくなってしまった状態」に似ていて、気がついた時には疲れ切ってしまっているというのがお決まりのパターンです。
こういったタイプを持った方の深層心理には、「いつも頑張って100%の自分で居ないと周りが離れて行ってしまう・・」という強い思い込みが見られます。
何でもやりすぎてしまうというよりは、やらないといられないという感覚に近いでしょう。
また、常に100%の自分を演じているので、相手も自分に対して100%で接してくれないと極度に見捨てられたような不安感に襲われてしまいます。
これが「こっちは全力で接しているんだから、あなたも同じくらいで接してよ!」という高すぎる期待に変わっていくのです。
しかし、多くの人たちは常に全力(100%)でいると疲れてしまうことを知っているので、だいたい70%くらいの加減で周囲の人と接しています。
深入りしすぎず、ある程度の距離(自分に無理のない距離)を保ちながら接しているとも言い換えられます。
ところが、パーソナリティ障害を抱える人にとって、この「70%で接してくる」ということは自分の完璧を求めるスタンスや期待との大きなギャップがあるため納得ができません。
中には「私は70%で相手をされる程度の人間なのか!」といった不満を抱き、怒りをぶつけてくるというケースもあります。
自分にも他人にも「ほどほど」という加減の仕方がわからないのです。
仕事や家事などにおいても常に気を緩めることができず、他人に頼ることすらできません。
最終的には全てのことを自分だけで背負い込んでしまい、「私はこれだけのことをやっているのに、なぜ周りは評価してくれないんだ!」という不満に変わっていってしまいます。
周りの人たちが「そんなになるまで一人で背負い込まずに、誰かに頼めばいいのに・・」と思い、指摘したところで一切聞く耳を持ちません。
逆に言えば、こういったタイプの人が「誰かを頼ることができるようになる」ということは、回復への大きな目安となるわけです。
卒業生からの手紙~境界性パーソナリティを抱えた女性~
過去にもこの完璧主義と他人への過度な期待に悩まされた研修生が数多くいらっしゃいましたが、その中でも印象に残っている、長い年月をかけて見事回復なさっていった一人の女性の例をご紹介します。
当時30代だった彼女は、医療機関にて境界性パーソナリティ障害と診断され、その後当センターへ入所されました。
彼女の抱える苦しさやつらさは大きく、幾度となくリストカットやODなどの自殺未遂まがいの行為を繰り返し、生死の境をさまようこともありました。
また、彼女の内面には数名の人格が居座り(解離性同一性障害)、突然人格が変貌することも多々あり、ひとたび凶暴な人格が登場すると自傷行為が始まってしまうといった感じでした。
そんな彼女も当センターを無事卒業され、その数年後には矢市先生宛に一通の手紙を送ってくれました。
彼女からの手紙の内容の一部を、本人の同意の元ご紹介したいと思います。
※個人の特定がされないよう、一部内容を修正しています。
『先生並びにスタッフの皆様、ご無沙汰しております。
現在私は彼氏と毎日とても充実した日々を過ごしています。
私を長年診てくれた主治医の先生にも「最近はだいぶ落ち着いてきましたね。大変良い調子ですよ。」と言われる事が増えました。
薬の方も今は安定剤も処方されなくなり、睡眠導入剤のみとなりました。
彼との生活でようやく一つ分かり始めた事があります。
以前先生がおっしゃっていた「あなたは何でもやりすぎ。100%を求めすぎる。」という言葉の意味を理解できるようになってきたのです。
前は仕事も家事も全て100%「自分だけ」でやらなければならないと思っていたのですが、自分の体がしんどい時やつらい時などは、素直に「お願いします」と言えるようになり、気持ちにゆとりが生まれていることに気がつきました。
何事も積み重ね学習し、修正できるものなのだと実感しています。』
以上が彼女の送ってくれた手紙の内容になります。
彼女は約2年2ヵ月の入所生活を経て、社会に羽ばたいていかれました。
今でもたまに100%を求めてしまう癖は出てしまう時があるとのことですが、そんな時は「意識的に人を頼る」ということを取り入れているのだそうです。
現在は他県にて、手紙をくれた当時の彼氏さんと結婚して楽しく生活を送っているようです。
どうかこれからもお幸せであることを切に願います。