子供が家庭内暴力、引きこもり、ニートのような状態になってしまっているご家庭では、親が子供の奴隷であるかのようになっていることがあります。

 

親は子供の言いなりで、子供を怒らせないよう細心の注意を払い、身の回りの世話をしたり、おこづかいを渡したり、欲しいものを買ってあげたりと”子供のため”になんでもやろうとします。

 

しかし、これは果たして本当に”子供のため”なのでしょうか?

 

よくある話として、こういった親御さんは子供に対する罪悪感から我が身を守るために、”子供のため”という建前を利用して奴隷に甘んじてしまっているケースが少なくありません。

 

親がすべての責任を負う必要はないのですが、そういった罪悪感からなのか、自分だけでなんとかしようとして手詰まりになっている話をよく伺います。

 

今回は、そんな複雑な事情が垣間見える親子の奴隷関係について、なぜそうなってしまうのかを一緒に考えていきたいと思います。

 

主たる要因

子供が親を責め続けたり、親に対して暴力を振るうこと(家庭内暴力)があるご家庭などでは、そのほとんどが「親を奴隷化(もしくは進行中)している」と言われています。

 

奴隷となってしまう経緯には、親と子供がどのように接してきたかが大きく影響していることもわかっています。

 

例えば、あるご家庭では「うちの子には”反抗期”がなかった」といったケースがあります。

 

反抗期が来ないことをあまり深刻に考える親御さんが少ないのは、現代ではあまり珍しくないのかもしれません。

 

しかし、子供が反抗期を経験することは大人になるために必要な「自主性」を育てるための通過儀礼であることは周知の事実となっています。

 

ただ、この反抗期というものは自然に訪れるものではなく、親が子供に対してある程度「親の考え」をはっきり押し付けるような物言いが要求されます。

 

押し付けるというのは少し語弊があるかもしれませんが、あくまで強制のない範囲で子供に親の価値観を指し示してあげるくらいに捉えてもらってかまいません。

 

親は「子供に嫌われたくないから」「子供といがみ合いたくないから」と、子供は「親にとっての良い子でありたい」がために、お互いにぶつかることをためらってしまうことも理解できます。

 

しかし、そこで怖気づいてしまったり、仲良くしていたいがためにいわゆる「友達親子」のような関係になってしまうことはあまり好ましくありません。

 

そうなってしまうと子供の自立性や自主性が育たないばかりか、将来的に家庭内暴力や引きこもり、ニートといった家族問題へと発展する可能性が大きくなってしまうためです。

 

本当に子供のためを思うのであれば、一時的に嫌われようともぶつかり合いの場を作ってあげてください。

 

家族の絆というものは、それくらいで消えてなくなってしまうようなものではありませんのでご安心ください。

 

他の要因

子供に反抗期を与えてあげられないことは、親が奴隷化してしまう要因の一つでしかありません。

 

他にも、親が子供に自分の本音を伝えることをしてこなかった(コミュニケーション不足)ケースでも起こり得ます。

 

親も忙しく、考えなければいけないこともたくさんあるものですから、ついつい子供の訴えにしっかり耳を傾けてあげられないことがあります。

 

しかし子供というものは、親に自分の気持ちをわかってほしかったり、認めてほしかったりするものですから、一生懸命あの手この手で親の気を引こうとするものです。

 

もしもそれらに応えられないまま時が過ぎていくと、子供の不満やストレスはどんどん膨れ上がっていってしまいます。

 

やがて限界を迎えた子供は、不満を爆発させるように強い手段(暴言、暴力、物を壊すなど)で訴えるようになってきます。

 

こうなると親も子供に対して恐怖や困惑といった負の感情を抱くようになってしまいます。

 

「子供が何を考えているのかわからない…」

 

それはある意味当然の意見であるようにも思われます。

 

自分の子供と言えど「一人の人間」ですので、たくさんのコミュニケーションを重ねなければ、お互いに考えがわかるほどに理解し合えるわけがありません。

 

まともな会話をしてこなかった親子ほどこのような状況に陥ってしまい、最終的には親が子供を腫れ物のように扱うようになり、コミュニケーションは完全に絶たれてしまいます。

 

その結果、待っているのはやはり親の奴隷化というわけです。

 

無言のレールを敷かない

最後に、これが一番予防が難しいと思われる奴隷化の要因があります。

 

まず前提として、子供というものは本能的に親を喜ばせたい、認められたいという意識を持っています。

 

そんな子供の前で、親が「良い学校に行ってほしい」「いい仕事に就いて出世してほしい」などと声に出さなくとも、そんな期待を少しでも子供に察知されてしまったものなら、子供はその期待に応えようと思ってしまいます。

 

そんな子供の姿に親は思わず喜んでみせたり、褒めてあげたりしようものなら、子供の頑張りはさらに加速を続けていくでしょう。

 

しかし、道半ばで結果が出せなかったり、挫折してしまったりしようものなら、子供はその責任を期待をしてきた張本人である親に対して求めるようになります。

 

「親の敷いたレールの上を強制させられてきた!」

「親に騙され、人生を台無しにされた!」

 

などと、罵声を浴びせられるようになってしまいます。

 

親からしたら押し付けたつもりもなく、全く身に覚えのない言いがかりにしか聞こえません。

 

それでも子供はそんな風に思ってはくれません。

 

親はこれまで、子供が自主的に頑張ってきたものとばかり思い、喜びとともにわが子を称賛してきたかもしれません。

 

しかし、実際のところ子供は親の期待に応えようと必死にあがいて無理をしてきただけだったのです。

 

このような認識の違いから、子供は親を逆恨みするようになり、その償いだとでも言わんばかりに親を奴隷のように従わせようとし、責任追及を始めるのです。

 

解決策

結論から申し上げますと、親が奴隷のようになってしまっている状態のご家族は、臨床経験からみても「家庭内だけで問題を解決することが不可能な領域にまで達している」と言えます。

 

親は子供がそうなるまで心理的に追い詰めてしまった張本人として認識されてしまっているため、そもそも解決する立場にすら立たせてもらえません。

 

そこで仮に、友人や親せきなどに助けを求めたとしましょう。

 

共感してもらったり、理解のある助言をいただけて少しだけ心が軽くなるかもしれません。

 

ですが専門知識のない方が問題に介入すると、意図せず関係を悪化させてしまったり、余計にこじれてしまう可能性があるため、あまりおすすめはできません。

 

有効な手段(解決方法)としましては、まず社会福祉相談窓口などにご相談されることをおすすめします。

 

その場合、大抵は精神科への受診をすすめられたり、支援してくれそうな専門機関を紹介されると思います。

 

実際に当施設も専門機関として、過去にケースワーカーさんを通じてたくさんのご家族とつながることができ、解決に向けた支援を提供し続けてまいりました。

 

ちなみに当施設ではこのようなご家族様に対して、まず大切なお子さんを施設で預かり(距離を置き)、親と子が冷静に自分たちを見つめ直すための時間を作ります。

 

そして、双方を心理的にケアしながら今後の親子の適切な関係を模索したり、お子さんの自主性や社会自立を促しながら、将来について一緒に考えていくような支援を行っています。

 

もしも手詰まりに感じていたり、絶望的と思えるような状況に陥っているのであれば、迷わず相談窓口に問い合わせるなどして、医師や専門家との連携を図ることをおすすめいたします。