パーソナリティ障害(の可能性を含む)方たちは、人一倍感情の変化が目まぐるしいのが特徴です。
周囲から理解を得られないことも多く、相対した人に情緒不安定や二重人格といった誤認をされてしまうこともよくあります。
しかし、一見すると理不尽な振る舞いにも見えるその様相には、彼ら・彼女らなりの“理由”や“道理”がしっかりと存在しているのです。
今回は、その狂気とも捉えられがちな態度や感情の変化、その結果行われる敵認定や手のひら返しについて、専門家の立場から誤解を解いていきたいと思います。
感情の激変に圧倒されて見落としがちな“SOSの信号”を読み取ることの大切さを、この機会により多くの方たちにご理解いただければ幸いです。
【目次】
1.手のひら返し 2.自己防衛のため 3.狂気ではない |
1.手のひら返し
気分の浮き沈み、気持ちの落ち込みといったものは誰にでもあります。
それでもよほど大きな出来事でもない限り、仲の良かった家族や友人に対して敵意むき出しになってしまうような関係性の急変はそう起きるものではありません。
しかし、日頃から強い生きにくさを感じていたり、頻繁に周囲へ迷惑ばかりかけてしまう傾向にある方たちには、先に述べたような理屈が当てはまりません。
なぜなら、そうした方たちには何らかの“精神疾患の可能性”が考えられるためです。
統合失調症や双極性障害、解離性同一性障害(多重人格)、パーソナリティ障害などがその最たる例です。
特にパーソナリティ障害においては、突発的な思い込みや決めつけ、不合理な解釈、強い疑心暗鬼といった特性により、無自覚な本人とその周囲の人を苦しめ、安定した人間関係の構築を困難にしていることがわかっています。
パーソナリティ障害の方たちにとって、それがほんの小さな行き違いや一方的な思い込みであろうとも、敵認定に値するほどの重大な裏切り行為に受け取れてしまうのです。
これはいくら周囲が地雷を踏まないように気をつけたところで防ぎようがなく、歩み寄ろうとする支援者の悩みの種となっています。
どんなに理不尽に思えようとも、本人の解釈如何によって(それが事実とは異なっていたとしても)必然的に対立は生まれてしまうのです。
支援者として彼ら・彼女らの態度が変わってしまう原因(心理的要因)を学んでいくと、そうした理不尽な行いを一方的に咎めたり責めたりできない理由について理解することになります。
実は態度の急変や手のひら返しが起こる原因の多くは、疾患の特性によって通常の何倍にも感じられる恐怖や不安から身を守るため、脊髄反射的にとっている行動なのです。
しかし、しくみを理解している私たち専門家ですら頻繁に手のひら返しを繰り返されて辟易してしまうことがあります。
家族や友人にそうした理由を含め「過激な変化を理解して受け入れろ」とアドバイスするのも酷な話に思えます。
実際、当施設へ相談に訪れる親(家族)に話を伺ってみると、ほぼ全員の方がそんなやり取りに疲れ果てた末に施設へ辿り着いたと語っています。
「なんでもすぐに揚げ足をとってきて怒らせてしまうので腫れ物扱いをするようになってしまいました…」
こうした悩みはやがて周囲にいる人たちのほぼ全員が抱くようになり、本人の孤立状態(本人からしてみれば周囲に見捨てられたような状態)へと発展していってしまうのです。
2.自己防衛のため
先に述べてきたような態度の急変や手のひら返しは、突き詰めれば彼ら・彼女らの感じる強い恐怖や不安から身を守るための「自己防衛手段」です。
自己肯定感が低かったり、普段から大きな不安を感じているような方たちは、自身の身を守るため異常に疑り深くなっていたり、他者に対して攻撃的になってしまうことは珍しくありません。
ただ、そのような態度は周囲から見れば「理不尽な人」「自己中心的な人」「高圧的な人」といった印象を抱かれてしまう原因に他なりません。
いくら自分が迫害されていると感じても、それによって相手に逆襲したり攻撃していいという正当な理由にはならないからです。
また、そうした方たちの多くは他者に対して“過度な期待”や“こうあってほしい願望”を抱いていることも少なくありません。
その結果、周囲が希望に応えてくれないと感じることで深く絶望し、拒絶や嫌悪を示すような態度を見せることもあります。
このようなことを続けていたのでは、いつまで経っても他者との良好な関係性を築けないばかりか、自ら孤立してしまう要因を作ってしまうことにもなります。
まずはそうした悪循環に陥っている自分の行いを認識し、少しずつ別のやり方へ変えていく練習をしていかなければなりません。
3.狂気ではない
強い不安や恐怖、疑心暗鬼などから感情の急変や自己防衛に走ってしまう様は、周囲からは狂気と捉えられてしまうでしょう。
しかし、そういった負の感情がどれほどつらく苦しいものかは本人にしかわからず、抑えきれない衝動というのも他者には伝わりにくいものです。
支援者として大切なことは、そんな疾患の特性に対して理解しようという気持ち、歩み寄ろうとする姿勢です。
攻撃的な態度、拒絶する態度、手のひら返しなどは決して狂気からくるものではなく、弱い自分の心を守るためであり、安心できる場所や人を求めている「SOS信号」として受け取ります。
疾患の特性や持って生まれた感性(発達の特性)などにより、周囲とは大きく異なった考え方や生き方をしていたとしても、心の底で「安心できる居場所」を求めていることは万人に共通です。
時には自己中心的に他者を責め立てたり、威圧的に大騒ぎすることもあるでしょう。
それでも「決して見捨てないよ」という姿勢を見せてあげることができたなら、きっと心のどこかで安心を感じてくれるはずです。
同時に、「悪態ばかりではいずれ人は離れていってしまうよ」ということも理解してもらう必要があります。
こうした症状を持った方のサポートは、どうしても家族や友人だけではすぐに手に負えなくなってしまうことがほとんどです。
そのような時は専門家のサポートや治療も視野に入れ、協力して支えてあげてください。
本人からみて家族や友人という立場にあたる方は、常に「一番の良き理解者」で居てくれることが、本人にとって何よりの救いになるということを覚えておいてください。
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