今回は、当センターと提携している「おやこ心理相談室」より、佐藤文昭心理士によるコラムをご紹介したいと思います。
マウントを取り合う夫婦 支配欲求の落とし穴
夫婦の関係性にはいろんな形がありますが、その中でも今回は「お互いにマウントを取り合う」という関係の夫婦をご紹介します。
「マウントを取り合う」とは、自分の方が優位であることを示す行為のことを言います。
「自分の方がえらい、自分の方が正しい、自分の方が優秀だ、有能だ」というのを相手に対して見せつけることです。
もともとは、格闘技で使われる言葉だったようですが、転じて職場や交流の場で使うことが多くなったようでエス。
最近は、夫婦関係においても、お互いにマウントを取り合おうとしているご夫婦が増えているように感じます。
- いつもケンカばかりしている
- まったく意見がまとまらない
- 足並みがそろわない
支配欲求が関わっている
「マウントを取り合う」夫婦関係について解説するうえで、まずは「支配欲求」という言葉を説明したいと思います。
支配欲求とは、「自分の思うように動かしたい」とか「考えや行動を束縛したい」という欲求のことです。
マウントを取りたがる人というのは、言い換えれば「支配欲求が強い」人ということになります。
「支配欲求が強い」ということは、「支配欲求が満たされていない」ということでもあります。
ここで言う「満たされていない支配欲求」とは、大抵の場合自分に対する支配欲求です。
人は思春期辺りから「自分の人生を思うように動かしたい」「自分らしく生きたい」という欲求を持ち始め、それに向かってどう進めばいいのかと考え始めます。
しかし、自分の人生を他の要因(環境や親)に支配されてきた子供たちは、自分の人生を支配しているという実感が持てず、支配欲求が満たされることはありません。
自分に対する支配欲求が満たされなかった場合、自傷行為や摂食障害などの症状が出てきたりします。
自分の体や食欲を支配することで、支配欲求を満たそうとしているのですね。
そのまま大人になり結婚して子どもができたりすると、その満たされなかった支配欲求の対象は、そのままパートナーや子どもにすり替えられていきます。
子どもが一番の被害者
もし、夫婦のどちらか一方の支配欲求が強くても、もう片方がどっしりとしていれば、そこまで問題が大きくなることはありません。
しかし、お互いに支配欲求が強いということになると、なかなか複雑になってきます。
物事をひとつ決める際でも、お互いに自分の思うように動かしたい、相手の言いなりにはなりたくないので、行ったり来たりでなかなか決まりません。
家庭内の重要な方針、例えば子育ての方針や仕事や家事に関する方針なども全く足並みがそろわずに、バラバラのままです。
中には「相手の言うことは内容がどうあれすべて気に入らない」おか、「相手が嫌がることをあえて言う(する)」とか、「相手にだけは、負けたくない」と、夫婦関係が勝ち負けの関係になってしまっているケースもあります。
そうやって夫婦がギスギスしているうちに、時間だけが過ぎてしまいます。
子どもにしてみれば、両親がバラバラのことを言うので、何を信じたらよいのか分かりませんし、自分が進むべき方向もよくわからなくなってしまいます。
そして、子ども達がいろいろな問題を抱え始めていくのは、ある意味当然の結果ですね。
満たされなかった支配欲求と向き合う
ここまで行くのを避けるためには、自分の中の満たされなかった支配欲求にきちんと向き合う必要があります。
この作業は独りでは大変なので、安全な場所で専門家と一緒に行うことをおすすめします。
支配欲求が満たされてくると、不必要に夫婦が争うこともなくなり、子ども達も安定してきます。
一人で相手に立ち向かっていく戦場だった家庭が、味方がたくさんいてリラックスできる居場所に変わっていきます。
おやこ心理相談室 公式マガジン「おやこの本音」Vol.15 2023年夏号より
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