皆さんは、メンターという言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
一般的には、会社などで若手や新入社員などを指導したり相談したりする立場にある、年齢の近しい上司のことをメンターと呼ぶそうです。
実はパーソナリティ障害ケアの現場でも、この「メンター」の存在がとても重要視されています。
私たちスタッフは、日々入所者の皆さんが抱えている悩みに耳を傾けたり、助言を行ったりしています。
入所者の皆さんからするとメンターという立場にある私たちは、そんな彼ら・彼女らの精神的な支えである傍ら、生き方のお手本となるよう自らの行いにも気を払って生活を共にしています。
そんな私たちの持つ“考え”や、これまで関わってきたパーソナリティ障害の方たちとの“過去の体験”に触れることで、皆さんはそれらを自らの知識や経験へと昇華させ、成長を実感されます。
今回は、パーソナリティ障害ケアの専門家である当施設のスタッフたちと入所者たちとの”交流の様子”についてご紹介し、その魅力をよりたくさんの方に知っていただければと思います。
【目次】 1.個性的なスタッフ 2.関わりの中から 3.切符を手にして |
1.個性的なスタッフ
当施設へ入所された方から、「ここのスタッフさんは皆それぞれ個性的ですね」と言われることがよくあります。
もちろんこのことにはしっかりとした理由があります。
日本人は特に、皆が一様であることを美徳とするような部分がありますが、パーソナリティ障害ケアの現場において言うならば、スタッフ全員が全く同じ返答しかできないようではあまり意味がないと考えています。
スタッフがそのようにあえて自分の個性を出しつつ入所者の皆さんと接しているのは、より人間身を感じてほしいという狙いがあります。
また、色んな性格や特性、症状の方が入所されてくる状況下で、その人にとって話しやすい(気の合う)スタッフと出会える確率を少しでも上げるために、色んなタイプのスタッフがいるということは施設の強みであると思います。
逆にこれが「誰に話しかけてもみんな同じ」という雰囲気だとしたら、たった1人のスタッフと話が合わなかっただけで「この施設はダメだ、合わない」と思われてしまい、そこで終わってしまいます。
スタッフが個性的であるがゆえに、中にはどうしても馬が合わないこともあるかと思います。
しかし、そんな時は無理にそのスタッフと分かり合おうとする必要はありません(これは一般社会においても全く同じことが言えます)。
ただ、当施設のスタッフたちは全員が入所者の皆さんの味方であるということだけは絶対の共通点です。
話が合わなくても、話しかけにくくても、皆さんの回復を願い、協力的であるという精神を持っています。
自分と気の合うスタッフが見つかったなら、その人にどんどん悩みを聞いてもらったり、気になることを相談してみてください。
自分に理解があって、とても話しやすいと思えるスタッフと積極的に交流していくことで、自然とスタッフの持つ良い部分を吸収し、ロールモデル(お手本)として自らも近づこうと努力されるようになります。
2.関わりの中から
当施設には数名の常駐スタッフの他にも、同じように悩み、苦しみ、生きづらさを抱えて集まってきた“入所仲間”が何人もいます。
今までひとり暮らしや家族と一緒に過ごされてきた方が、入所を機にたくさんの人たちとの共同生活の中に身を置くと、自分の新たな一面に気づかされることがあります。
例えば、施設で仲間のみんなのために料理を振舞ったり、親切にしてあげることで相手から贈られる“感謝の気持ち”が何よりも幸せと感じる女の子がいました。
ところがその子は自分のことよりも人の笑顔を優先する一面があり、ついつい無理をしてしまってキャパオーバーになり、ぐったりしてしまうことも少なくありませんでした。
その子のように、人のために何かできるということは誰にでもできることではありませんし、人として非常に素晴らしい素質です。
また、人から感謝されるということは自己肯定感や自信をも育んでくれるというメリットがあります。
しかし、それだけが全てになってしまうとやがてその行為には責任感や義務感といった感覚が生じるようになってしまい、だんだんと自分を苦しめるものへと変貌していってしまいます。
「なぜ今、自分はこんなにいっぱいいっぱいで苦しいのだろう…」
「みんなのために何かすることはあんなに嬉しかったはずなのに…」
このように、たくさんの人と共同で生活を送ってみたことで、今まで気づかなかった自身の変調の兆候や、持って生まれた特性について理解するためのきっかけを得ることができます。
彼女の場合、一見すると表面上の行動によって好不調の波が作られているようにも見えますが、実は根本的な原因は内面にこそあるということにも気づけていました。
そのことに気づいてからの彼女は、様々な工夫や試行錯誤の日々を過ごし、いつも自分の生き方や考え方について前向きに考える姿勢が見られました。
自分のできないことや苦手なことができている人を見つけると、自分の目標としてひたむきに努力を積み、まるで仲間たちのお手本のようにその成長への足掛かりを得られているようでした。
彼女のそんな姿は、私たちと同じメンターそのもののようにも感じられます。
3.切符を手にして
当施設へ新たな入所者の方がいらっしゃった際に、私たちは何か巡り合わせのようなものを感じてしまうことがあります。
なぜなら、当施設は広く全国からの受け入れを行ってはいるものの、経済的な理由、本人の同意が得られない、希望する支援がないなどのご家族の意向によって、困っている人たち全員とつながれるわけではないためです。
家庭の事情を考慮したうえで、様々な条件をクリアして無事入所へと至った皆さんとの出会いだからこそ、必ず特別な意味があるものと思えてならないのです。
当施設の“人”や“設備”を含めた環境は、何もかもが入所者の皆さんを成長へと導くための大切な資源となってくれます。
しかし、資源がいくらあっても積極的に利用されないことには、自身の症状の回復や緩和、精神の自立や成長といったものは望めません。
また、皆さんのこれまでの人生が耐えがたいほどつらく、苦しいものであったとしても、それが入所後も何も変わらないなどということは決してありません。
当施設へとたどり着いた時点で、皆さんは自らが今後幸せになるための切符(きっかけ)を既に手にしていらっしゃいます。
あとは切符を手にした皆さんが、私たちと共に何を為し遂げて巣立っていかれるかどうかにかかっています。
様々な人生の選択を繰り返しながらここへ到達した皆さんならば、「無駄ではなかった」と思えるような有意義な時間を過ごしたいという意思の力は備わっているのだと思います。
施設を出るその時に、「全てつながっていたんだ」と実感していただけるよう、どうか人生の大切な時間を施設で無駄に過ごされないよう、存分に私たちを頼ってください。
私たちスタッフも、皆さんとの出会いは何かの導きであると信じ、サポートの手を惜しむことはありません。
この先の道がどんなに困難だったとしても、「この施設に来てよかった」と思ってもらえるように、私たちは切符を手にした皆さんの支えとなれるよう、一緒に歩んでいくつもりです。
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