今回は、臨床心理士として28年臨床の現場で当事者たちと生活を共にし、多くの実践経験を積まれてきた佐藤矢市元施設長(現顧問)から、貴重な話を伺うことができました。

 

現在、矢市氏は施設長を引退され、顧問として施設運営やサポートを陰で支えてくれる立場にあります。

 

また、独自の視点で「パーソナリティ障害に苦しんでいる人たちが救われるために何が必要なのか?」をテーマに研究を続け、実践されてきたパーソナリティ障害の専門家でもあります。

 

これまで、病院や他の支援施設とは異なる方法で臨床を続けてきており、その結果わかったという「パーソナリティ障害の回復プロセス」についてご紹介したいと思います。

 

目次

1.28年の実践

2.苦しみの中に

3.最後に

1.28年の実践

佐藤矢市氏の体験談をご紹介します。

顧問の背中

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私は、パーソナリティ障害に悩み苦しむ人たちと28年もの間生活を共にし、多くの体験を得てきました。

 

ハッキリと言えることは、「パーソナリティ障害の方たちによって私自身も成長させられ、生き方(人間性)を高められた」ということです。

 

具体的には、子どもの心にある純粋な思いをどれほど緩めるかについて迷っている場面から、多くのことを学んできました。

 

その過程で、当事者たちから数多くの罵声を浴びせられたり、時には殴られ、前歯を折られてしまったこともありました。

 

そうした時、パーソナリティ障害の方がいったいどんな気持ちであったのかを、身を持って感じ取ることができました。

 

彼らは「今、自分が何をしたいのか、何をしたがっているのかがわからない(できない)」という状態になり、単にカッとなっているだけなのです。

 

例えばこれが自宅であった場合、「本当に自分が自分らしくなるために、母親を殴り、自分を傷つけたりしていた」ということになります。

 

顧問

 

今や私は28年の様々な体験や気づきを経て、”深い部分で”彼らの抱く「安心したい」「この世の苦しみから解放されたい」という強い願いに共感できるようになっていきました。

 

彼らの多くは青年期のエネルギーや自分探しの苦しみ、そこにある虚無感、未来への希望と絶望、社会への反抗と生きづらさにある純粋なまでの愛…それら全てを”無にしたい現実”と日々闘っているのです。

 

しかし、現実社会に抗い続けるほどパーソナリティ障害の方は社会から隔離され、孤独になっていってしまいます。

 

同時に、そこで否応なしに”自分の無力とどうやったら直面できるか”についての葛藤が起きています。

 

一見すると苦しんでいるようにしか見えないような一連の流れも、私から見れば「回復するためのプロセスの扉を開けた証拠」であり、むしろ喜ぶべき瞬間でした。

 

時には誇大妄想から目覚め、現実に直面し、猛烈な”生きづらさ”を感じ始めるような方もいます。

 

その多くは出口の見えない抑うつトンネルに入り、真っ暗闇の中で怒り、その発散方法として私にぶつけることがあったのです。

 

つまり、パーソナリティ障害のもたらす苦しみや生きづらさから抜け出す方法が”怒り”の表出だったのです。

 

自分自身

 

究極的なことを言ってしまえば、パーソナリティ障害を回復していけるのは他でもない”自分自身(本人)”です。

 

険しい道のりと知りながら、それでもなおパーソナリティ障害の回復プロセスへと足を踏み込んだ方たちがどれほど大勢いたかを私はこの目で見てきました。

 

その事実を、これからパーソナリティ障害の回復に挑まれる皆さんにもぜひ知ってもらい、勇気としていただきたいと思います。

 

パーソナリティ障害の方たちは日頃から強い恐怖心を抱えており、時折家族にSOSを出しますが、その感覚がうまく伝えられず(真逆に伝わることもあり)苦しんでいます。

 

私が一番勇気を与えたいのは、今まさに、そうした”回復プロセスの入り口に立っている方たち”に他ならないのです。

 

最後になりますが、私自身、決して超人でもなければ天才だったというわけではありません。

 

誰も踏み込んだことのないこの領域を開拓していくことは、私ひとりの力では叶わなかったでしょう。

 

そんな私を最初からずっと信じて支え続けてきてくれた妻に、心より「ありがとう」と言いたいと思います。

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ありがとう

 

2.苦しみの中に

佐藤矢市氏の体験談はいかがだったでしょうか?

 

通常、パーソナリティ障害などの精神疾患を抱えた方の支援を行う場合、支援者と当事者(本人)との間には一定の距離を置くことがルールとしてあります。
※当事者の依存や支援者の負担を防ぐなどの意味があります。

 

しかし、どこでもやっているような方法では困難と言われるパーソナリティ障害の回復を実現させるのは難しいと判断した矢市氏は一歩距離を詰め、当事者たちの生きづらさを間近で体験しようと考えたのです。

 

同じ敷地内で過ごし、寝食を共にし、朝、昼、夜を問わず彼らの近くに居て、彼らの話に耳を傾け、時には怒りの矛先を向けられ危険な目にも遭ってきました。

 

虎穴に入らずんば虎子を得ず

 

そうした稀有な試みの甲斐あって、矢市氏はパーソナリティ障害の回復プロセスについての知見を得ることが叶ったのです。

 

協力者

 

 

矢市氏は前線を退いた今も、現役スタッフや心理士たちと協力し、これまでと変わらず当事者たちの社会自立親子関係の改善問題行動の解決のため尽力を続けています。

 

また幸いなことに、近年ではそうした取り組みに賛同し、協力態勢を敷いてくださる会社が数社現れ、連携によってサポートをより一層充実したものへと革新させることができました。

 

パーソナリティ障害の方には皆、それぞれが持つ生きづらさ無力感こそ大きなヒントとなり、”その人に合った生き方”というものが見えてきます。

 

矢市氏は”人生で一番苦しいと感じている瞬間こそ最大のチャンス”であると捉え、そこから確かにつながっているであろう「希望ある未来」の存在を必死に訴え続けています。

 

3.最後に

サポートルール

通常、パーソナリティ障害の回復支援を行う場合、次のことに気をつける必要があります。

・支援者は当事者と一定の距離を保ち、過度な手助けをしない

・支援者は障害・こだわり・葛藤の苦しみを理解し、常に同じ態度で接する

 

特に、一定の距離を保つという点は、回復までにかかる長い時間を共にする支援者と当事者のお互いのためにとても大切なルールです。

 

距離が遠すぎればお互いに信頼関係を築くことができず、支援には欠かせない”寄り添う”という部分が達成できません。

 

逆に、距離が近すぎれば当事者の依存状態を引き起こして回復に差し支えるばかりか、支援者側への精神的負担(共倒れの危険)も増していってしまいます。

 

そうした観点から、先に紹介した当施設で行っているパーソナリティ障害への支援方法は、誰にでもマネできてしまうような方法ではありません

 

あくまで、ノウハウを得た矢市氏が主導となって行ってきたからこそ成り立っていたということを忘れないでください。

 

現在、当施設では矢市氏の後任となる施設長がその知識と技術を継承し、当施設独自の回復プロセスを盛り込んだ「宿泊学習支援」及び「心理支援」をご提供しています。

 

他では受けられない、パーソナリティ障害に特化した回復支援プログラムを体験できることが、当施設最大の魅力です。

 

希望の芽