皆さん、こんにちは。

佐藤矢市先生の「パーソナリティ障害の回復には決断と見守る連携が必要」シリーズ第17回目となります。

今回は、当センターを卒業されていった数多くの方々の成長の様子を、20年以上運営し、見送ってきた矢市先生にご紹介していただきます。

卒業までに起こる「変化」

まず、入所されてからの2~3ヵ月(当センターでは「混乱期」と名付けています)は、初期症状が顕著に表れてくる時期でもあり、「死にたい・・・」というお決まりのセリフから、自傷行為や家庭内暴力、数々の依存症行為や警察沙汰など、様々な症状を訴えてきます。

当初の彼らには「自分のことしか考えられない」という共通点があり、これは他者から学ぶことがとても困難で、生きていく上でとても苦しいことなのです。

しかし卒業期に近づいてくると、『人は人、皆それぞれ考え方が違っていてもいいんだと思えるようになった』という方や、『今までは苦手な人や嫌いな人、怖い人に対しては敵とみなし、勝手に心の扉を閉ざしていたが、今はそれらの人に対して、全てが苦手だったり怖いわけではないと思えるようになり、逆に好感が持てる面があったり、同情するような面もあったりと、色々な視点(角度)から物事を見る力が身に付いてきた』といった変化(成長)を遂げた方もいます。

当然、相手への「感謝の気持ち」も生まれ、気負いも少なくなり、「今の自分はこの程度でも仕方ないし、そういう自分を見て、知ってもらって、それでもし嫌いになられたとしても、まぁいいかなと捉えられるようになった」と、訴える方もいました。

このように、治療困難と呼ばれるようなスタートラインからでも、卒業期を迎える頃には、社会でアルバイトをしていたり、正社員になられたり、結婚や進学など、夢に向かって歩み出すところまで成長される方がいるのです。

実体験によって成長できる

どうしてそのような変化が起こったり、健全な心理状態に到達できるようになるのかという疑問の答えには、当センターへ実際に入所して体験してくだされば、自ずと気づいていただけるかと思います。

卒業生の中には、「私には守るべきものがあり、そこに気づけた」と口にする方がたくさんいます。

「守るべきもの」とは「家族」であったり、「友人」であったりするわけですが、これは「自分は決して独りではなかった」という大事な点に気づけたからこそ表れてくる心理状態なのです。

入所前の段階では、「頭で分かっていただけ」のことを実際に体験し、実感してもらうことにより、このような一連の変化が起こるのです。

ここでの「卒業期」というのは皆さんの長い人生において、社会に復帰なさっていく上でのほんの通過点でしかありません。

当センターでは卒業生に対して、卒業後5年間はアフターフォローという形で、及ばずながら彼らを応援させてもらっています。

この段階に至った彼らは、「自我」というものがしっかりしてきているので、感情を調節できるようになったり、現実に巻き込まれず、対人関係においても徐々に安定を取り戻してきています。

自然に「ありがとう」が言えるようになり、笑うことや楽しいこと、安心できることが増え、夢や希望を持ち、その中で幸福感を表現している彼らを見て、私たちも彼らの確かな成長を実感しています。

そんな彼らに「もう大丈夫だね」と言ってあげることが何よりの幸せです。