皆さん、こんにちは。
シリーズブログ「パーソナリティ障害が治るきっかけ」第4回目となります。
このシリーズではパーソナリティ障害を抱えた当事者たちがどのようにして快方へと向かっていったのかを、当施設の臨床経験から見えてくる「治るきっかけ」に焦点を当てて考察していきます。
今回は、パーソナリティ障害を持った方の多くが抱える「対人関係」の悩みについて、過去に当施設に入所されていた一人の女性の変化を例に、その克服への道を考察してみたいと思います。
閉ざしたこころ
当時まだ10代だった女性Cさんが当施設へ入所された頃、同時期に入所されている利用者は20名以上もいらっしゃいました。
しかし、彼女は過去の家庭での辛い体験からか、周囲の人間に決して心を許すことはなく、スタッフはおろか誰とも積極的に関わろうとはしませんでした。
挨拶もせず、必要最低限の連絡事項以外に人と会話をすることはほとんどありませんでした。
周囲からも、そんなこころの壁の厚い彼女はあまり好ましく映っていなかったことでしょう。
当施設のスタッフは年齢もまばらで、20代、30代、40代、60代と様々な世代が在籍しており、そのためほとんどの利用者とスタッフの誰かが打ち解けることができていました。
そんなスタッフたちも、今回は果たして打ち解けることができるのかと心配になってしまうくらいに彼女は無関心(もしくは敵視)の態度を貫いていました。
理解者の存在
彼女が入所されてから1~2ヶ月くらい経過した頃でしょうか。
時間はかかってしまいましたが、当時20代後半だったスタッフの一人が、ようやく彼女と打ち解け始めていました。
彼女に対して偏見もなく、話をじっくり聞いてくれる態度に徐々に会話の数も増えていき、色んな話をしてくれるようになってくれました。
そのうち、彼女がなぜ他人との間に壁を作ってしまうのかという話題にも触れることができました。
どうやら彼女は「他人なんてどうでもいい。自分さえよければいい。」と思い込んでしまっているようでした。
おそらく、過去の辛い体験が彼女をそう思わせてしまったのだろうとすぐに理解できましたが、放っておいては彼女の今後の人生に支障をきたすことは明白です。
いきなりお説教したのでは嫌がられてしまって当然なので、スタッフはまず、どんなに小さな出来事であっても彼女を「褒め」、そして「認める」という関わり方を続け、信頼関係の獲得を目指しました。
この行動には他にも、彼女に「二つのこと」に気づいてもらうという目的がありました。
一つ目は「今まで避けてきた他人の中にこそ、自分(彼女)を理解し、助けてくれる存在が居る」ということ。
二つ目は「自分をまっすぐ見て理解してくれる人には、こころを開ける自分がいる」ということ。
これらを主観的に実感してもらうことが、彼女の入所期間中の課題の一つであると感じていました。
考察
1年数ヶ月という期間を当施設で過ごされた彼女は、勉強にも励み、自動車運転免許を取得したり、通信で高校卒業資格の取得などもされました。
後半はアルバイトにも励んでおり、趣味にも時間を費やしていました。
入所期間中、彼女にとって一番の収穫だったことは「自分をまっすぐに受け止めてくれる人(理解者)に対しては、素直な自分を出せる一面があること」にしっかり気づけたことではないかと思っています。
彼女は決して人が嫌いだったわけではなく、環境の影響からか後天的にパーソナリティ障害を抱え、いつの間にか他人との間に壁を作るようになっていました。
これは完璧に治るというものではなく、そのために今後もきっとたくさんの困難にぶつかり、その都度苦労しながら色々なことに気づいては乗り越えていくことになるでしょう。
そんな時、彼女の助けとなり、成長を促してくれる存在が「良き理解者」なのです。
彼女は現在、都会で一人暮らしをしながら、頑張ってアルバイトで生計を立てているそうです。
一人でも二人でも多く、自分のことを理解してくれるような存在に巡り会うためにも、壁を作らず、誰にでも素直な自分を出せる練習を続けていって欲しいと願っています。