皆さん、こんにちは。
シリーズブログの第一部「小さな気づきで全てが変わる~Small changes make
a big difference」19回目になります。
「あやまる」という行為は、コミュニケーションの場において、対人関係をスムーズに運ばせるための一つの手法となり得ますが、パーソナリティ障害のタイプによっては、この「あやまる」という行為の意味が通常と異なったものになります。
今回はパーソナリティ障害タイプ別に、「あやまる」という行為の持つ意味について解説して参ります。
自責か他責かで意味が変わってくる
パーソナリティ障害者の中でも、自責感が強いタイプの人は、すぐに謝ることでその場を無難に収めようとしたり、全てを自分の責任だと思い込んでしまう傾向にあります。
ちょっと極端な例えですが、誰かがくしゃみをしたとして、このタイプの人は「あ~、私が動いてほこりを立ててしまったからくしゃみをさせてしまったのかな・・私の責任だ・・」などと捉えてしまいます。
こういったタイプの場合は、謝ること自体が癖になっている傾向にあるので、それ以外のコミュニケーションスキルを学習してもらう必要があります。
一方、自己愛性や強迫性、演技性や境界性パーソナリティ障害などのタイプの場合は、他責(他人を責める方向)に出る傾向があり、そんな彼らにとっての謝るという行為は、「敗北」と同等の意味を持っています。
このタイプはたとえ自分に否があったとしても、決して謝ることはしません。
自分の否を認めたくないし、認められないからです。
逆に言えば、このタイプの人が他人に対して謝ることができるようになるということが、回復の目安になってきます。
当然、物事を勝ちか負けかだけで判断している限りは謝ることはできないでしょう。
実際に臨床現場の中で、こういった他責傾向のパーソナリティ障害者たちが「あやまる」という行為を通して学び実践していくことで、成長していく姿はよく見られます。
そこで今回は、一人の当センター体験者の実例を紹介しながら、「あやまる」という行為が周囲との人間関係を円滑にし、社会性を獲得していった様子をご紹介したいと思います。
演技性パーソナリティ障害者の例(30代女性)
当初の彼女は数々のブランド品を身にまとい、いかにも高貴な女性を演じていましたが、これは演技性パーソナリティ障害の人の特徴で、周囲の注目が自分に向くように様々な努力をしているという行為の一環なのです。
常に話題の中心に自分がいることが叶わないと、すぐに腹を立ててしまい、自分の話を熱心に聞いてくれる相手を探して回ります。
こんな調子で、彼女は入所期間中に他の研修生との間で数々のトラブルを起こしてしまいました。
当センターにおいて、研修生同士のトラブルは特に珍しいことではなく、トラブル発生の際には、お互いにじっくりと話し合って和解できるようサポートしていくのですが、彼女の場合は一向に謝る気配はなく、それどころか相手を徹底的に攻撃していきました。
ですが、まったく謝ることができなかった彼女も、当センターでの様々な体験を通して、「あやまる」ということは決して「負け」ではなく、和解のためのプロセスであるということに気がつき始めました。
その頃には、数々のブランド品を身にまとうこともなくなり、飾り気のないジャージ姿でも施設内を歩き回れるほどに様子が一変していました。
そんな彼女が社会復帰を果たした後に語ってくれた言葉を、本人の了承の元、ご紹介して参ります。
彼女の「すみませんでした」
以下は彼女の語ってくれた言葉になります。
『私の仕事はお弁当屋です。オーダーが入ってからお弁当を作り、お客さんをなるべく待たせずに、短時間で商品を渡さなくてはいけないので、スピード勝負です。
パーソナリティ障害支援センターでは、マイペースに生活をしていましたが、職場では全く反対で、要領よく、そして素早く作業しなければならず、自分にとってよい訓練だと思い、毎日気を引き締めて働いています。
職場は、人生経験を踏んできた主婦の方が多いのですが、そんな方たちが真剣に仕事をする姿は、とてもかっこよく私の目に映りましたので、教え方が少し厳しくても、「早く一人前にさせるために言ってくれているんだ」と思えているし、仕事中は怖くても、それがその人の本質ではないという感じがしたので、それほど気になりませんでした。
それだけ真剣なんだと思い、それを受け取るよう心がけました。
最近、先生から「あやまる」ことができるようになった点が変わったと言われましたが、職場では正しいやり方というのは人によって異なるし、それぞれが自分が効率がよいと判断したやり方でやっている部分があります。
私のやり方について、「こう教わらなかった?」と言われたりすることもありますが、それを「いいえ、私はこう教わりました」と弁明するより、まず一刻も早く仕事ができるようになることが先決という気持ちで、「すみませんでした」と言って、その場で言われた通りにやってみるようにしています。
筋を通すことが大事なのではなく、「みんな頑張っていて、それぞれのやり方が違うだけ」と思うので、特に誰かが苦手と感じることなくやれています。
経験ある方たちと仕事を通じてコミュニケーションできることに感謝しながら働いています。』
以上が彼女の言葉になりますが、昔の様子からは想像もつかないほど意識が変わっていることが伺えます。
社会の中で、周囲とどのようにコミュニケーションを取ればよいのかということを彼女なりに学習し、時には理屈を通すだけではなく、まず素直に「あやまる」こともコミュニケーションのスキルであると気づき、上手に立ち回っているようです。
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