前回の記事「自殺未遂を続ける子ども」の中で、子どもが自殺未遂を繰り返す原因として人格障害(パーソナリティ障害)などの精神疾患が強く影響していることをお伝えしました。
自殺未遂の臨床研究データを見ていくと、実はその割合のほとんどがある一つの障害に集中していることがわかっています。
それは境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害、BPD)と呼ばれる人格障害の一種です。
今回は、境界性人格障害との因果関係から、子どもが自殺未遂を繰り返してしまう理由と傾向を探り、どのような支援が必要とされているのかを皆さんにご説明したいと思います。
愛情飢餓
境界性人格障害の方は根源に”強い自己否定感”を持っているため、しばしば自殺未遂や自殺企図という手段を用いては周囲を自分の思い通りにコントロールしようとする傾向にあります。
心理的な観点からこの行動を読み解いてみると、自らの命を危険にさらしてまで愛情や関心を求めようとするのは、基本的に安心感が乏しく、絶えず激しい愛情飢餓にさいなまれていること理由として考えられます。
また、気分や考えが両極端に変動しやすい傾向もあり、気に障るようなことがあるたびに絶好調から絶不調へと急変してしまいます。
その様子はまるで別人格にでも入れ替わってしまったかのように見えているかもしれません。
愛情飢餓とは、常に人からの”愛情の証”を追い求め、その期待が裏切られたと感じると絶望に襲われ、簡単に自殺未遂に走ってしまうほどの負のサイクルに陥っている状態なのです。
命がけで欲しがる愛情
当施設の過去の臨床記録にある、男女のカップルのケースを見てみましょう。
二人の関係はある時を境に地獄の様な日々へと変わってしまいました。
彼女は、彼の些細な言葉に傷つけられたと感じるたびに、すぐ自傷行為や自殺未遂を繰り返すようになっていきました。
毎日毎日繰り返される彼女の異常な行為に、彼は心身共に疲れ果て、最後には彼女を避けるようにまでなってしまいました。
すると彼女は、彼を待ち伏せしたり自宅に無言電話を繰り返すようなストーカーまがいの行為を始めるようになっていきました。
これにはさすがに対応に困った彼は、不本意ながらも彼女からのある提案を受け入れてしまったのです。
「もう諦めるので、お願いだから最後に1度だけ私に会ってほしい…」
この言葉を信じて彼女のアパートを訪れると、目を覆うような光景が彼を待っていました。
部屋にはOD(オーバードーズ、大量服薬)したであろう痕跡と、手首から血を流して昏睡状態で横たわる意識のない彼女の姿があったのです。
その後、彼の通報によって病院へ運ばれた彼女は一命を取り留めました。
病院では境界性人格障害という診断結果が下され、間もなくして彼から当施設へ相談があり、症状回復のための入所利用を開始することになったのでした。
愛情飢餓に苦しむ女性は、自らも制御できないほどの強烈な衝動からくる異常行動によって、結果的に自らのみならずパートナーである男性をも巻き込んでしまいました。
ちなみに、このケースではパートナー同士のトラブルに納まっていましたが、これが家族間(親子)であるケースも決して少なくありません。
回復への過酷な道
境界性人格障害の方は、愛情や関心が自分に向けられていないと感じると「自分は損をした」という思い込みをしてしまう傾向があります。
そして、それらを取り戻そうとまるで”赤んぼう”からやり直すような態度をとるのですが、こういった方を立ち直らせることは非常に困難です。
どんな行為や言動も一切否定せず、とことん受け止め続けていく覚悟が必要になってくるため、際限のない赤ちゃん返りに付き合い続けていくうちに、支える側は気が滅入ってしまうでしょう。
もう一つの方法としては、こちらから望みを叶えてあげることはできないので「自分で乗り越えてくれ!」と、現実を突きつけるやり方もあるのですが、これにも相当な覚悟が要求されます。
まず、ある程度の自殺未遂や暴言・暴力などの”こちらを試す行為”が起こることは想定しておかなければなりません。
そのうえで、毅然とした態度と一貫した対応を続けていく必要があります。
いずれの方法も、並みの精神力と体力では続けられないことは明らかなため、ご家族で実践するにはあまり現実的な方法とは言えないでしょう。
家族だけで背負わないで
先に紹介した回復のための支え方は、厳密に言うとそのどちらかの手段のみで快方へ向かうことは難しいことが臨床研究によりわかっています。
当施設の過去の回復記録には、受け止めつつも現実を突きつけるというやり方がうまく作用し合ったことで本人の中に変化が生じ、快方へ向かったと記されています。
しかし、このような支え方が実現できたのは、境界性人格障害の専門である心理士や、自殺未遂に対する知識と支援経験豊富なスタッフたちが居る当施設ならではと言えます。
仮に同じやり方を家族だけでやってみようとしても、支える側が先に限界を迎えてしまうか、悲惨な結末を迎えてしまうことが予想されます。
専門的なケアを必用とするとても難しい問題ですので、まずは”家族だけで”どうにかしようとなさらずに、専門家を頼ってみてください。
自殺未遂で困ったら
ここまで、境界性人格障害を持った子どもの自殺未遂の背景には、強い自己否定感や愛情飢餓といったものが理由として存在していることをご説明してきました。
その対応方法についてもいくつかご紹介してきましたが、ご家族だけでの実践が難しいということもご理解いただけたかと思います。
これには、当施設としても自殺未遂という人の命に係わる問題行動を簡単に考えて欲しくないという意図が込められています。
当施設では、心理士とスタッフたちが当事者たちとの長い臨床研究の中で培った様々な知識と経験を最大限に活用し、安全対策を万全にその対応にあたっています。
それと同じくらい大切なこととして、”支える側”の人間のケアも忘れてはいけません。
支える側とは「本人のご家族」や「専門家(私ども)」のような者を指しますが、そのような立場の人間がもしも先に倒れてしまったら、その後誰が助けてくれるのでしょうか?
そのような状態をよく”共倒れ”と表現しますが、私どもは絶対に共倒れにならないよう、支える側の人間が無理をしないための注意も決して怠りません。
例えば境界性人格障害の方を相手にする時は、本人にとっても支える側にとっても一番無理をしないですむための合言葉があります。
「ここまでは助けられるが、ここから先は自分で何とかしてくれ」
このように伝えることで、必ず一定の線引きをするようにしています。
ただし、これは本人が自分の足で立てるようになるためであって、決して”突き放す”という誤解を与えないための注意が必要です。
これを伝えておかないと、無限にエスカレートしていく相手の要求にいつまでも付き合わなければならなくなり、共倒れの危険が予想されます。
境界性人格障害の方は、意外と受け止められる以上に叱ってくれる存在を求めていたりするものなので、相手に見捨てられたと思わせず、にいかに叱れる存在になれるかが良き支え手となるための秘訣と言えます。
ひたすら能動的に訴えに耳を傾けるだけではなく、時には受け止めるが、叱りもするというスタンスで向き合うことで良好な関係を築くことで、回復の可能性が見えてきます。
最後になりますが、当施設の支援は「本人とご家族の心(気持ち)」を何よりも大切にしています。
なぜなら、境界性人格障害の自殺未遂といったように、困難な支援を余儀なくされている関係者は皆、心身ともに消耗してしまいます。
人間という生き物は心と身体がつながっていて、心が折れると身体にも大きな影響が及んでしまうため、元気に支え合いながら生きていくには、まず心を理解し、寄り添っていく姿勢が大切なのです。
当施設のこのような理念に共感していただけたなら、ご家族だけで悩まれる前に、一度お問い合わせいただけると幸いです。
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専門施設として「パーソナリティ障害宿泊・心理支援センター」
施設長
佐藤矢市
2000年度に開設以来、本来安心できるはずのご家族において、親も子も安心して暮らすことができないということは本当につらいことでしょう。私たちはそうしたご家族の一助となれるよう、尽力しております。
費用
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宿泊料金 | 支援ニーズにより異なります。まずはお問合せください |
※詳しくは下記URLよりアクセスください。
心理障害グループホーム「地上のひかり」
施設長
佐藤靖人
2021年度に開設し、この度「JECパーソナリティ障害宿泊・心理支援センター」と業務提携を結びました。
心理障害を抱えた方に向けて、心理ケアやスポーツが盛り込まれた生活を通し、楽しく学びながら成長し、将来への希望が見出せます。
月額利用費を抑えながらも支援の質を落とさず、自立や社会復帰に向けた生活支援を行う居住空間をご用意いたしました。
費用
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