ひと昔前まで子供が親に向かって使う悪口は「うるさい!」や「ムカつく!」などの感情がこもったセリフが主流でした。
しかし、近年では「気持ち悪い」や「ウザい」といった少し冷めたような印象の言葉を使う子供が増えてきているように感じます。
長年、多くの親子の対話に立ち会ってきた私たちからすると、こうした時代による言葉の変化はあっても、子供たちが親に伝えようとしている想いはあまり変わっていないように思えます。
ただ、当事者である親からしてみれば、子供に言われた「気持ち悪い」などという言葉はそのままの意味に受け止められ、「私の何が気持ち悪いんだ!」と困惑してしまうことでしょう。
そこで今回は、子供が親に向けて使う悪口に隠された意味(メッセージ)を読み解き、それに対してどういった対応が求められているのかについて解説してみたいと思います。
【目次】 |
娘からのメッセージ
ある母親から、「パーソナリティ障害と診断された娘を治療に結びつけたいが、私は毛嫌いされており説得することができない」というご相談を受けました。
その娘さんは普段から母親に対し、ことあるごとに「お母さんほんと気持ち悪い!」と怒鳴りつけてくるのだそうです。
そこで私たちは、母親と一緒に娘さんがどうして気持ち悪いと言ってくるのかについて考えてみることにしました。
まず、娘さんが使った言葉の意味を”母親が気持ち悪い”という言葉通りに捉えてしまうのは少し違っているように思えました。
なぜなら、パーソナリティ障害の特徴に当てはめて考えてみると、娘さんは表面上では母親を嫌悪しているような態度を見せつつも、心の深い部分では母親を求めているであろうことが予想されるためです。
では、どういった解釈が正しいのかというと、これは少し言い回しを変えてみるとしっくりきます。
おそらく、娘さんが気持ち悪いと母親に言うことで「自分の気分を害された」ことを伝えたかったのではないかと推測できます。
母親に前後の状況を確認してみると、やはり娘さんに対する無理解や意見の押し付けをしてしまっていたようなのです。
きっと娘さんは、そんな母親の態度に息苦しさやむなしさ、寂しさなどが織り交ざったモヤモヤした感覚を覚えたはずです。
自分の中に感じる不快感を適切に表現する言葉が見つからず、結果として出てきた言葉が「気持ち悪い」だったのでしょう。
しかし、その表現ではただ母親に誤解を与えるだけで、自分の想いを伝える(理解してもらう)にはいささか言葉足らずになっています。
さらに、こうした母親と娘の意見のすれ違いが日常的に続いてしまうと、相手の話をまともに聞く気にはなれなくなってしまいます。
その結果、今回母親から当施設へご相談があったように、いざ娘のパーソナリティ障害の回復のために動き出そうと思っても、母親では本人を説得できないような状況へ陥ってしまうのです。
パーソナリティ障害の娘が変わる
はっきり申し上げますと、「親が変われば子も変わる」というやり方で親子関係や子供のパーソナリティ障害を改善できた例は、当施設の臨床記録から見てもほとんど確認されていません。
しかし、子供が変わることに関してはまだ望みがあり、実際に症状の緩和や親子の関係性が改善していった前例は数多く確認されています。
長年に渡りパーソナリティ障害を専門に扱ってきた当施設では、こうした知見から、まず”子供の心に変化を起こす”ことを目標にサポートを行っています。
当施設のサポート内容をご説明するにあたって、先にご紹介した母娘の回復事例についてご紹介したいと思います。
まず、「パーソナリティ障害だから悪態をつく」「親の対応が悪いから悪態をつかれる」といった先入観に惑わされないためにも、娘さんが施設入所するという形でいったん母親との距離を置いていただきました。
これには別の大きな理由もあり、普段娘さんが母親に向けている執着のようなエネルギーを、自分自身のために使えるよう仕向けるという意図が含まれています。
娘さんは生まれて初めて母親と離れて生活を送ることで感情の矛先(母親)がなくなってしまい、初めはどうしていいかわからずパニックになってしまうこともありました。
それでも、辛抱強く施設での生活を続けていく中で、隠していた感情を徐々にスタッフや心理士、仲間(利用者同士)たちに打ち明けてくれるようになり、話すことで気が楽になるということに気づかれました。
やがて母親に対し抱いていた執着なども薄れていき、娘さんは「これから何をしよう」と考えられるほど心にゆとりが生まれ、エネルギーを自分のために使うようになっていく予兆が見られ始めました。
”自分のやってみたいこと”や”興味のあること”について考えを巡らせるということは、自分らしく生きていくための準備をしているような段階とも言えます。
そんな調子で日に日に心が変化(成長)していった娘さんは、ご自分でも驚くほど母親に対する考え方や捉え方なども変わっていきました。
当の母親は、そんな娘さんの変化に寂しさを感じていたかもしれませんが、温かく見守っていきたいとも語っていました。
親御さんへのアドバイス
親に対し「気持ち悪い」「ウザい」と言ってすぐキレたり、無視するようになってしまう子供たちは大勢います。
しかし、どんなに悪態をつかれようとも親にとって大切な我が子であることには変わりありません。
私たちは、そんな親御さんたちに子供とどう接してあげたらよいかについてのアドバイスをご紹介したいと思います。
手始めに、親がついつい取ってしまいがちな言動についておさらいしてみます。
・自分の考えを押し付ける。
・束縛が強い。
・過保護や過干渉。
・叱ってばかりで褒めない。
・他人や兄弟と比べる。
・子供の話を聞こうとしない。
これらは一般的に、子供が不快と感じてしまう親の言動に分類されていることを知っておきましょう。
親が子供をあたかも自分の所有物のように扱い、自分の思い通りにしようとしてしまっているという点が特に問題視されています。
こうした親の考えは、口に出さなくとも態度や仕草などからも勘のいい子供には伝わってしまい、問題行動(家庭内暴力、引きこもりなど)を引き起こしたり、うつ病やトラウマ、パーソナリティ障害などを悪化させてしまう原因にもなってしまいます。
ここからが本題となりますが、子供への親としての対応を考える上でぜひ知っておいてほしい大前提があります。
それは、子供は生まれた時から”立派なひとりの人間”であり、誰かの所有物ではないということです。
親と同じく、子供も自分の人生を歩む権利を持っており、やがて自然と自分の力で生きていけるよう成長されます。
そんな子供の人生を、間違っても親がコントロールしようなどと思ってはいけないのです。
一流大学を出て、大企業に就職し、結婚して、子供を作って、親の老後の面倒を見て…。
これらは全て、子供が自ら選択して進む道であり、親が強制するようなものではありません。
親として、自分の子供についつい期待してしまう気持ちも理解できます。
しかし、そうした親の気持ちを押し付けてしまうと、子供は「気持ち悪い」と感じてしまうでしょう。
だからと言って、親に何もするなという話ではありません。
親の愛情が不足してしまっても、子供は生きていけなくなってしまいます。
親からもらった愛情というものは、一生を通して何にも代えがたい心の支えとなってくれます。
親として子供にできる最善のことは、助けが必要な時に手を差し伸べ、温かく見守ってあげることです。
完ぺきでなくても、至らないことがあってもいいので、子供の意思を尊重し、よく話を聞いてあげてください。
親子だけでは難しくても
今回ご紹介してきたような「子供に悪態をつかれるような関係の親子」や「子供がパーソナリティ障害と診断された親子」が、子供の問題行動や障害を改善しようと説得を試みても、思うようにいかないことの方が多いでしょう。
緊急性を感じられたとしても、親子だけではどうしても医療や支援に結びつけられないという苦しい声はたくさん耳にしてきました。
そんな声に応えるため、当施設では「親子話し合いの場」というものを提供しています。
親子話し合いの場では、親だけでは難しかった我が子との対話を実現させるべく、まずは自宅から場所を変えて当施設へと足を運んでいただき、相談員を交えての対話を行っていただきます。
対話の中ではお互いの言い分がぶつかって白熱する場面もありますが、相談員が常に状況を見守り、手が出そうになったら止めに入ったり、お気持ちに沿ったご指摘させていただいたりと、お互いの想いを打ち明け合うための手助けをいたします。
対話の後も、相談員が個別に考えや気持ちの整理を手伝ったり、心理士が心のケアを行ったりもしてくれます。
そうした一連の流れを通して、お子様には「親は変えられない」という一つの真理を知って(諦めて)いただき、親御さんにはお子様にあまり多くをお求めになられないようご理解いただきます。
そうすることで、お互いの意見や気持ちに落としどころが見つかり、関係改善や問題解決へ向けた前向きな提案へと結びついていくことが、当施設の長い臨床研究からもわかっています。
親子だけでの対話が難しいと思ったなら、当施設へご相談いただければ必ずお力になれるかと思います。
※「親子話し合いの場」について詳細はこちらのページをご覧ください。
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