皆さん、こんにちは。
佐藤矢市先生の「パーソナリティ障害の回復には決断と見守る連携が必要」シリーズ第12回目となります。
今回は、矢市先生が心理ケアを通して数多く関わってきた「親子関係」についてご紹介して参ります。
親子関係は「水と油」のようである
ここでいくつか例を挙げてみましょう。
両親が二人とも高学歴で、子どもに「期待」という「見えない圧力」を押し付け、窒息状態になっている子どもが居る家族。
子どもがいくら気持ちを訴えても、取り合わず、全く聞く耳すら持たない自分勝手な母親が居る家族。
子どもが全ての主導権を握り、実の親をあたかも奴隷のように扱っている家族。
窃盗やストーカー行為などの問題を繰り返し、何度も警察沙汰になっている子どもと、その責任を親が強いられている家族。
パーソナリティ障害を抱える家族には、実に多種多様な親子関係がありました。
そんな彼らと長年接してきて感じることは、親子関係は「水と油」の関係に似ているということです。
水と油は決して混じり合うことが無いように、親と子の関係も決して融合することがないという意味です。
融合しようと努力し続ける親子
私の元を訪れる親子の多くは、決して混じり合うことのない「水と油」を一生懸命融合しようと努力し続けていました。
ある親御さんは、自分の息子や娘を自分の延長線上の存在とみなしたり、ある娘さんは、必死に自分の苦しさや辛さを、母親に理解してもらう事を期待しては裏切られ、家庭内暴力を繰り返したりしていました。
決して混じり合うことのない親子が必死に融合を図ろうとしていたのです。
こういった泥沼状態から、パーソナリティ障害者が回復していく過程には、必ず「親と自分は違う存在だ」という分離固体化の認識が必要です。
「私がどれだけ苦しんで辛い思いをしてきたかを、親に分かってもらうこと」を期待しているうちは、楽にはなれません。
同様に、いつまでも「親の変化」を望んでいては、自分の人生を歩み出すことはできないのです。
親は変わらないということ
ある卒業生の言葉を借りて表現するとすれば、
「私の親は、私の気持ちが分からないし、分かろうとしないレベルの人でした。そういう意味では本当にかわいそうな人達だと思う。今までは自分のことを全く理解しようとしない親を、必死で何とかしようと努力してきたけど、その努力自体が無駄だったということに気がついた。その行為自体がただ疲れるだけだった。もうこれ以上関わりたくないし、振り回されたくもない。この先変わってくれるという保証もないんだから・・・」
この言葉は、子ども側が親と自分の存在とを、「全く異なる存在」であると認め、受け入れることが出来たからこそ、出てくるものだと思います。
「次へ」踏み出すために
結局、自分を責めるでも、誰のせいでもなく、あるがままの姿を受け入れることができればよかったのです。
このレベルに辿りついたなら、「自分の人生を歩む」という次の段階への第一歩を踏み出すことができるのです。
なぜならば、今まで「親を変える」、「自分の苦しみや辛さを親に理解してもらう」という非常に困難なことに費やしていた膨大なエネルギーを、全て自分のために費やすことができるようになるからです。
次へ踏み出し、回復されていった多くの方々は、自身の特性を、人間として魅力的と感じるほどに円熟させていきました。
社会に復帰してからは、次第に周囲の評価も高まり、信頼関係や多くの愛情にも恵まれ、人生を楽しまれているように感じます。
全てのご家族が今の状態から抜け出し、前進できるチャンスを持っています。
どうか諦めずに、その道を一緒に探してみましょう。