皆さん、こんにちは。
佐藤矢市先生の「パーソナリティ障害の回復には決断と見守る連携が必要」シリーズ第16回目となります。
今回は、矢市先生が考えるパーソナリティ障害の「回復(卒業)の目安と希望」について解説していただきます。
最初の心構えが肝心
当センターの入所期間には個人差があり、何もかもを皆が同一にできないところが逆に面白い点であり、私のやりがいでもあります。
卒業までの入所期間の平均は約1年~2年のようですが、当然、その期間の中では語りつくせないほどの様々なドラマが繰り広げられていくことになります。
社会自立へ向けて、「もう大丈夫」と思えるようになるには、やはり長期間のケア(最低でも一年以上)が必要になってきます。
なぜならば、当センターへ入所されるまでの間に身に付けてきたものの考え方やクセ、対人関係のパターンやパーソナリティの歪みが修正されていくまでには、年単位の時間を要するからです。
それでも私どもは、入所されるまでに20年ないし40年間の長い人生を歩んでこられた方が、その人生の10分の一の期間で回復していけるようなプログラムをご用意しています。
当事者の決意や努力で回復していくことはもちろん当たり前ですが、それに加えて大切なことは何かと言うと、支えているご家族の「回復できる」という信念が問われてくるということです。
具体的には、「一旦、当センターへわが子を預けて任せたのであれば、それを信じる」という信念です。
当センターに入所されるパーソナリティ障害者の多くが、入所初期には必ずと言っていいほど親に対して様々な不満や怒りをぶつけてきます。
「こんなところに居たくない。早く帰りたいから迎えに来てほしい」などと繰り返し繰り返し訴えてきます。
ここで大切なことは、子どもは親の意志や信念を試しているということです。
あの手この手を使って、親が妥協して自分の意見を聞いてくれることを願っていますが、ここで「あなたの回復には必要なことだから、苦しいかもしれないけどがんばって」と、ハッキリ言い返せる信念を持っているかがカギになってくるのです。
ここで親御さんの意志が揺るいでしまって、少しでも子供の意見を飲んでしまうと、残念ながら回復の期間は先伸ばしになっていってしまいます。
「一人ではない、今のままでいい」と思える心
さて、本題の「回復(卒業)の目安と希望」ですが、当センターを卒業されていったOBやOGの方々を振り返ってみても、ほぼ全員が口をそろえて私に言い出すフレーズがあります。
それは「私は一人ではなかった。今の自分でいいのかもしれない」という言葉です。
問題の真っただ中にいて、生きることへの苦しさや辛さを抱えている方々は、「変わらなければ・・・もっとしっかりしなければ!」という発想を持っています。
これは現状を否定していることでもあり、このままの思考では出口の見えないトンネルの中から抜け出せなくなってしまいます。
ところが卒業生の多くは、「今の自分でいい」と良い意味で開き直れるようになるのです。
そして、その発想を獲得できるようになるには、信頼できる仲間や、信じて相談できる専門家に守られている状態で、「自分は一人ではない」という安心感を体験することがポイントになってくるのです。
私どもは、当センターへ入所される研修生の皆さんが、少しでもこういった体験ができるよう様々な工夫をしています。
ですが実際の所、その人にいつ変化のキッカケが訪れるのかはわからないというのが事実ではありますが、そこがおもしろい所でもあります。
私どももご家族さんと同様に、決して諦めない姿勢を貫き通します。
パーソナリティ障害のケアには、特に私たち支援者の「信じる力」が問われてくるからです。
これが簡単なようでいてとても難しいことなのですが、この成果がいつか生まれてくることを信じて、日々支援を続けていきます。
本人に少しでも「治したい、変わりたい」という想いがあるのなら、それは夢や希望を持っているからこそ沸いてくる感情だと思います。
ぜひ、一緒に協力して彼らの背中を押してあげましょう。