皆さん、こんにちは。
シリーズブログの第一部「小さな気づきで全てが変わる~Small changes make
a big difference」33回目になります。
今回は、当時17歳だった女性(診断名は境界性人格障害)の症状について、参考までにご紹介していこうと思います。
※個人が特定されないように一部内容を修正しています。
ある女性の臨床事例「自分が大っ嫌い!」
彼女は高校時代、学校という集団の中になじめず、不登校になってしまいました。
集団の中に入ることに対しての不安が強く、次第に不登校になっていってしまったそうです。
「みんなが私を嫌っている」
「私はこの世にいらない人間だ!」
などと泣き叫んでは母親に当たり散らし、暴力が頻繁に起こるようになりました。
自傷行為(リストカット)は月に1~2回はあり、傷つけすぎた左腕の手首はケロイド状になっていました。
また、少しわがままな面もあり、自分の欲しいものはどんなに高いものでも買うことを要求していました。
しかも、もしそれが拒否されると窓ガラスや食器類といった割れそうなものに当たり散らし、ことごとく壊してしまうといった具合でした。
このような激しい暴言・暴力がない時には概して無気力で、虚無感が強い状態でした。
また、友人から電話がかかってくると、人が変わったように立派に対応するというのも彼女の特徴でした。
この様になる前はきわめておとなしく真面目であり、母親に実にかわいがられ、仲の良い親子関係にありました。
ちなみに、彼女のような人格障害者の多くは幼少~学童期は実に素直で聞き分けもよく成績優秀な、いわゆる「良い子」が多いのが特徴です。
その後、高校を中退した彼女は実家から少し離れた町の受験校に入りました。
しかし、そこでもなじめないという理由から、一挙にこのような破壊的ないし衝動的な人間へと変貌してしまったのです。
当時の精神科病院でのカウンセリングの中で、
「自分でも自分が大嫌いなのです…」
「こんな私は人に嫌われても仕方がないですね…」
「生きている実感がまったくない…」
「自分と言う人間がよくわからない…」
といったように、しんみりとした雰囲気で訴えていたと聞いています。
ところが、母親が彼女の衝動的な行動を指摘すると、瞬く間に激しい怒りを表すのでした。
「お母さんは黙っていてよ!」
「人のことにいちいち口を出さないで!」
「そもそもこうなったのは育て方が悪かったからだよ!」
と、時には暴言だけでなく母親を殴ったり蹴ったりもしていました。
また、主治医に対しても気に入らないことがあると急に怒りの発作を示し、
「医者だからって威張るんじゃない!」
「役に立たないヤブ医者のくせに!」
と、日頃の態度からは全く予想もつかない言動も見られたそうです。
その場で化粧道具を壁にぶつけ、ガラスの破片が散らばった時には、主治医も驚かされたと聞いています。
さらに困ったことに、この時点で服薬による自殺未遂(OD、オーバードーズ)はすでに4~5回におよんでいました。
それ以外にも、お腹に刃物を刺したりすることもあったそうで、母親は精神的にも追い詰められていました。
当の本人はというと、自立心が乏しく、母親への甘えが強いので、心の中ではいつも母親に見捨てられることを恐れていたのでした。
耐えがたい寂しさ
この様に人格障害の中でも、境界性人格障害は気分の変化が目まぐるしく、それに伴い周囲の人に対して「敵」か「味方」かという評価を入れ替え、怒りが他責にむけば暴力、自分に向けば自傷行為になってしまうという特徴を持っています。
その根底には「耐えがたい寂しさ」というものを抱いていて、人は必ず自分を見捨てるはずだと思い込んでいるのです。
統計データこそ出してはいませんが、当センターではこういった方たちが、少なからず安心感を抱き始め、「自分はそう捨てたもんじゃないな」と思えるようになり、親に対する罪悪感や憎しみ、恐怖や不安感が軽減し、彼らが一番苦手とする平凡な一日と安定した関係性が築けるようになっているのは確かです。
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