親に対して憎しみや怒り、恨み、不信、犠牲、甘えなどを持っている子供の8割以上が、幼少期の親子関係(親の言動)の影響からくる”深い心理障害”を抱えています。

 

このような家族環境を「機能不全家族」と言い、その中で育てられた子供は「アダルトチルドレン(AC)」と呼ばれています。

 

もしも子供が本来”安心”できる居場所のはずの家庭において、母親(または父親)が子供に安心を与えてあげられなかった場合どうなってしまうのか?

 

結果として、ほとんどの子供が心理障害として、トラウマ、適応障害、孤独、空虚、絶望、罪悪などを抱えたまま成長し、うまく人間関係を築けない大人になってしまいます。

 

例として、過去に当施設へ入所利用されていた、母親のことを憎まずにいられなかった娘さんのお話をご紹介していきます。

 

親に責任はある?

娘さん(以下彼女)は今までいろんな人に対し、「私は母親を心底憎んでいる」「私の人生は母親に狂わされた」「私の人生を返してほしい」と訴えてきました。

 

そんな彼女に対して、これまで周囲は諭すように「もういいかげん許してあげたら?」「母親だって大変だったんだよ」「広い心をもって受け入れてあげなよ」といった言葉を投げかけてきたそうです。

 

しかし、彼女が心に負った深い不信、憎しみ、我慢は一般的な”常識”の範疇で処理できるレベルのものを超えていたのでした。

 

心理障害を患った方に向けてメンタルケアを行う際、多少の助言をすることはありますが、基本的には相手の話に耳を傾け、気持ちを理解してあげることから始めます。

※心理障害…PD、拒食症、強迫障害、気分障害、統合失調症など

 

いきなり正論をぶつけたところで、彼女からしてみたら「私のことを全く理解していない!」「私を否定している!」といったネガティブな考えが生まれるだけとわかっているためです。

 

かといって、彼女の意見にまるっきり賛同し、母親を一緒になって責め倒すこともしません。

 

なぜなら、母親の責任を追及することは彼女のためにはならないからです。

 

彼女の母親は”毒親”に見られていたかもしれませんが、どこにでもいるような子供に尽くすタイプのいわゆる”教育ママ”でした。

 

そういった方々の行動原理(心理)は「子供のためにできることはしてあげたい」というある種の強迫観念から成り立っていることがあります。

 

残念なことに、その行動は母親の意に反して「善意の押しつけ」として捉えられ、娘にストレスを与え続けてしまいました。

 

決して母親は”毒親”などではなく、ただ大切な娘に自分なりの愛情を持って接するという、ごく当たり前のことをしていただけなのです。

 

世の中に目を向けてみると、子供が好きでもない習い事や教育を押し付けられている家庭なんて星の数ほどたくさんあります。

 

しかし、その度が過ぎてしまうと愛情はねじれて伝わってしまい、往々にして子供に悪い影響を与えてしまう悲しい結果を招きます。

 

そしていつしか、母親も娘に対して罪悪、挫折、依存、怯え、無力、絶望、裏切られといった負の感情でいっぱいになってしまいます。

 

彼女の母親も人一倍愛情深かったために、ただ娘のためになることをしてあげたい一心からだったのではと考えると、なんともやるせない気持ちになります。

 

母親に責任がないとは言い切れませんが、それでも決して”毒親”と責められる筋合いなどないということは言えます。

 

娘の心の中

今度は彼女自身の心にあるものに目を向けてみましょう。

 

彼女は基本的に、自分の今の状況は全て母親のせいであり、責任を取ってもらいたいとよく口にしていました。

 

別の言い方をするならば、「悔い改めて変わってほしい」という願望を抱いているのだと思ってもらってもかまわないでしょう。

 

元凶である母親をどうにかすれば、解決できると頑なに信じているのです。

 

しかし、現実的な話をしてしまうと、母親を変えることに執着している限り彼女が現状から抜け出すことは実質不可能と言えます。

 

なぜなら、”親はもう変わることはない”からなのです。

 

小さい子供ならいくらでも変わりようがありますが、親はもういい年をした大人の人間です。

 

今後の人生において大きく変化することは必然的にもう望めないでしょう。

 

そして、そんな親を「お前が変わらないから私が変われないんだ!」と言わんばかりに責め立てるようなことをしてしまうと、同時に彼女自身も内心で傷つきます。

 

これはなぜかというと、彼女の心の中では次のようなことが起こっているためです。

 

「親を執拗に責める→自分は親を責めるひどい人間だ(しかし責任は取らせたい)→罪悪感を覚える→自分をも責め始める→新たなストレスがたまる」

 

では親を責めなければ済むのかというと、そう簡単でもありません。

 

責めなかった場合、それはそれで言いたいことが言えないといううっぷん(ストレス)がたまります。

 

ここまでを踏まえると、彼女は八方ふさがりのようにも感じられてしまいますが、決してそのようなことはありません。

 

心理の力を借りて

彼女が安心を取り戻すためには、彼女の抱えているネガティブな考え方(価値観など)を少しずつ方向修正していく必要があります。

 

そして、今後の人生において真剣に考えるべきは「自分自身の幸せ」なのだと気づいてもうらうことが最も大きな課題となります。

 

彼女は入所期間中に、仲間たち(同時期に入所していた利用者)やスタッフとの関わり、心理士とのカウンセリング、セラピー活動などを通して少しずつ母親にばかり向いていた彼女の意識を”彼女自身”に向ける訓練を続けていきました。

 

彼女は今でも母親に対して感謝する心は持ち合わせていないかもしれません。

 

それでも自分のことを考え、人生を楽しむ

ための準備をようやく始めることができました。

 

母親とて、彼女が生きている間中ずっとそばに居られるわけではありません。

 

ある日突然訪れるであろう別れを機に、彼女が路頭に迷ってしまわないように。

 

当施設で早い段階から”自分の人生”を歩むための下準備ができたことは、彼女の今後にとって、きっと財産になるであろうと信じています。

 

”毒親”という言葉もまた、親に全ての責任があり、改めるべきだという一部の偏った認識のもと生まれてしまった、悲しい負の産物であるように思われます。

 

そのしがらみから視点を変えて、真の意味で自分らしく人生を歩むことに気づいてもらうために、私たちのような専門家の力を借りることをぜひ検討していただければ幸いです。