【監修】佐藤 友哉(臨床心理士 精神保健福祉士
パーソナリティ障害 入院・宿泊心理センター外部委託)
被害妄想とは
妄想性障害(Delusional Disorder)の一種で、「事実と異なったことや、他の人にとってはあり得ないと思えることなどを、あたかも真実であるかのように確信してしまうような症状」のことを言います。
実は、当施設にも数多く寄せられる「どうして私(親)が子どものためを思ってやっていることや、その頑張りが理解されないのか?」という問い合わせの答えが、この被害妄想にあることも少なくないのです。
特性
被害妄想的な症状(観念を含む)は、主にうつ病、PTSD、統合失調症、認知症、覚せい剤などの使用、各種パーソナリティ障害などに起因して発症する場合があり、下記のようなメカニズムを持っています。
【被害妄想の2段階メカニズム】
第一段階 他責な考え(投影的帰属バイアス)
- まわりの人間に自分の人生を狂わされたと思う
- 他人に不当に扱われていると感じる
- 自分が軽視されていると感じる
第二段階 自分に関連づけてしまう(自己標的バイアス)
- まわりが常に自分のことを話しているように思う
- なんでもない言葉や仕草も、自分に対して悪意があると考える
このように、第一段階として「悪いのは誰だ(自分は悪くない)」から始まり、第二段階の「他者の意図が自分に向けられている」へと発展する傾向にあります。※原因となった精神疾患によって主訴は変化 引用元:『自分のこころからよむ臨床心理学入門』丹野・坂本
これらの妄想が原因で、実際に行政機関に訴えてまで繰り返し自分の正当性を主張しようとしたり、何もしていない周囲の人間に対して、暴力で抗おうとする(報復する)ケースがあります。
分析
当施設でも、被害妄想をお持ちの方が様々な努力と支援の末に社会復帰されていかれました。
その臨床経験により、以下のようなことがわかっています。
自身の被害妄想に基づく負の感情を「一人で抱えきれなくなっている」(処理できなくなっている)状態では、次のような行動面での傾向が見られます。
- 自分の不満や苦しみをわからせようと長時間相手に言って聞かせる。
- 会話中に突然機嫌を悪くしたり、極端な行動に出る。
- 自分の意思が通らないことがあると、押し通そうとしたり、根に持つ。
また、発言面においては、
- 私なんか死ねばいいんだ!
- みんな私がいなくなればいいと思っているんだ!
- みんな私がどれだけ辛く苦しいかをわかっていない!
- どうして周りは私のことをぞんざいに扱うんだ!
などといったセリフが多くなってきます。
これらの訴えや行動が頻繁に表れたまま改善されずに放置されてしまうと、止められない悲観的な思考やイメージに常に頭が支配されてしまいます。
その苦悩と負担から、より重篤な症状(自傷他害行為、自殺未遂、犯罪行為など)へと発展し、状況は悪化の一途を辿りかねません。
重篤化してしまうと、もはや通常の治療方法では対処できなくなり、「措置入院」や「医療保護入院」に頼らざるを得なくなってしまいますので、早めの対処(医療機関や専門家を頼ること)が求められます。
ちなみに通常の治療方法とは、「専門のカウンセリング」、「薬物療法」、「作業療法」などがあり、それらによって一時的に治まったり、症状が緩和されたりします。
そして何よりも、治療の上で最も重要なことは原因の根本的な解明であり、そのためには専門家や医師との協力が不可欠であるため、当事者たちだけで解決しようとしないことが大切です。
当施設での支援内容
被害妄想に対する当施設の支援方法は、まず最初に家庭環境(生活環境)の改善及び再構築に向けた介入から始まります。
被害妄想によって、負の連鎖に家族全体が巻き込まれてしまっていることに気づいてもらうと共に、対処方法の習得を援助いたします。
しかし、負の連鎖が長期的に続いてしまっている場合は、早急な親子間の関係調整が最優先となる場合があります。
なぜなら、負の連鎖の先に待つのは緊急性を要する事態が発生することが少なくないためです。
対策方法としては、物理的に距離を取ることが有効であることもわかっているため、支援の初期段階よりの別居支援をご提案しております。
まず、ご本人には当施設での宿泊支援に身を置いてもらい、ご家族と距離を置くことによって、負の連鎖の「外側から冷静に」自分と向き合いながら、回復に向けた心理支援を受けていただきます。
宿泊支援の概要としては、最終的な目標を「社会への自立」とし、当施設の自由で解放的な環境で、同じ悩みを持つ仲間と共同生活をしながら、リラックスした生活を過ごしていただきます。
自分の意思で心理カウンセリングや各種セラピーなどを利用することもでき、常に専門のスタッフによる心理支援が受けられます。
同時に、ご家族側には電話相談や来談面接を通じて、原因の究明と家族関係の改善に向けたアドバイスなどの支援も行っていきます。