今回は、息子から母親に対して振るわれる暴力に焦点を当てて解説してみたいと思います。
共依存のケース
成人を迎えた息子が自宅に引きこもりを続け、度々母親に対して暴言や暴力を振るっていたケースがあります。
- 我が子に責め続けられる。
- ”毒親”と訴えられる。
- こうなった俺の人生を何とかしろと言う。
母親は息子のそんな様子を見て、「息子は社会になじめず、不憫でかわいそうな子だ。自分がそばにいてあげないと、この子は生きていけない」と思い込んでいました。
もちろん、不憫だのかわいそうだのといったことは本来、子ども(息子)が自分自身で決めることであり、親であろうと勝手に決めつけていいものではありません。
こうした関係の中で、母親は息子を自分から離れられないように、あたかもペットのように支配しようとしていってしまいます(共依存関係)。
それに対し、息子は「かわいそうな子」を実際に演じてしまっていることも多く、その支配から逃れようと「暴力」という手段で時折抵抗してみるものの、なかなか抜け出せずにいます。
結論を言ってしまうと、このようなケースが解決した要因は、母親と息子が物理的に距離を置いた(別居した)ことによって、母親がいなくなって初めて「自分でなんとかしないといけない」と、息子が思い立ったことがきっかけとなり、自立への意思が芽生えたことにありました。
強迫性のケース
ある男性は日頃から少し強迫的な一面があり、よく一つのことに固執した行動を取っては母親に咎められ、言い争いになったり、もみ合いになったりしていたそうです。
当施設へ入所することになったきっかけも、いつものように強迫行動を母親に問い詰められて口論になり、彼が家を飛び出して外で大声で騒いで警察沙汰になってしまったことが原因でした。
母親と離れた彼は当施設で生活を送る中で自分と向き合い、自分を見つめ直して様々なことに気づき始めました。
これまでの自分の人生は、常に母親の期待に沿うために努力をするだけで、結果に満足してくれない母親の操り人形のような存在だったこと。
自分の人生は自分で決めることができ、自分のコントロールも自分にしかできないこと。
自立とは何か、大人とは何かがわかってきたのは、母親のために歩んできた人生を自分のために生きていこうと思えるようになってきたからです。
これらは、母親と離れたことはもちろん、スタッフとの心理相談や、様々な境遇を経験している研修生(利用者)たちと触れ合い、ゆっくり過ごしてみて気づけたことだと、後に彼は語ってくれました。
まとめ
例を挙げて説明して参りましたが、二つのケースに共通していたのは、母親が息子に過度の思い入れや期待をして、支配関係を築いていってしまうという悪循環があったことでした。
しかし、これはどの家庭においても一歩間違えれば起こり得ることではないかと思います。
そうなってしまうと、息子はただの奴隷かペットのように成り果ててしまい、自分の意思が持てずにひきこもりや家庭内暴力などといった問題へと発展してしまうばかりで、いつまでも社会へ自立していくことができません。
心理を取り入れた自立支援施設を営む私たちからしても、家庭の再構築のためとは言え、施設や病院へ子どもを預けての半ば強制的な母子分離は本意ではありません。
時が経ち、子どもから大人へと成長していくにあたり、自然と子どもを一人の人間として認め、余計な世話など焼かずに見守ってあげるくらいでちょうどよいのではないでしょうか。