「母に捨てられた」と思い続けたKさんの過去

KさんがJECセンターに入所したのは21歳のときでした。彼女は解離性パーソナリティ障害と診断され、これまで何度も入退院を繰り返してきました。

 

リストカットや過量服薬(OD)、さらには飛び降り未遂など、自傷行為が日常化しており、夜間にはパニック発作を起こすことも少なくありませんでした。

 

そんなKさんの心の奥底にあったのは、「母親に捨てられた」という強い思いでした。

 

幼い頃から母親に甘えることができず、いつも「もっと甘えたかった」「安心したかった」という願いを抱えていました。

 

しかし、それをうまく表現することができず、次第に心の傷は深くなり、彼女の行動に表れるようになったのです。

 

 

JECセンターでの生活と繰り返される発作

JECセンターに入所してからも、Kさんの症状はすぐに落ち着いたわけではありません。

 

夜中にパニック発作を起こし、息ができないほど取り乱すこともしばしば

 

さらに、自傷行為も続いており、スタッフは彼女のそばを離れることができませんでした。

 

Kさん自身も「私はこのまま変われないのではないか」という不安を抱えていたのです。

 

そんな中で、彼女を支えたのはJECセンターのスタッフの存在でした。

 

彼女が発作を起こすたびにスタッフは駆けつけ、落ち着くまで優しく声をかけ続けました。

 

また、Kさんの話を否定せずにじっくり聞き続けることで、彼女の心の扉は少しずつ開かれていきました

 

 

「安心」を知り、少しずつ眠れるように

スタッフと過ごす時間が増えるにつれ、Kさんは次第に「ここでは私は受け入れられている」と感じるようになりました。

 

最初の頃は「どうせ誰も私を分かってくれない」と思い、心を閉ざしていましたが、何度も話を聞いてもらい、共感してもらううちに、「話しても大丈夫なんだ」と少しずつ信じられるようになっていったのです。

 

その結果、これまで一睡もできなかった夜が、少しずつ眠れるようになりました。

 

長年の不眠や夜間の発作による疲れが癒されるにつれ、彼女の表情も少しずつ柔らかくなっていきました。

 

しかし、まだKさんの心の中には「泣くことへの恐怖」が残っていました。

 

 

人前で泣くことができなかったKさんの変化

Kさんは長い間、「泣いたら人に見捨てられる」「泣くと誰も助けてくれない」という思い込みを持っていました。

 

幼少期の経験から、「涙を見せると嫌われる」という恐怖を抱え、人前で涙を流すことができなかったのです。

 

しかし、JECセンターでは違いました。スタッフは彼女の涙を否定せず、「泣いても大丈夫」「泣くことは弱さじゃない」と伝え続けました。

 

その言葉が少しずつKさんの心に染み込み、彼女は次第に感情を素直に表現できるようになっていったのです。

 

この変化が、Kさんのさらなる回復へとつながっていきました。

 

この後は、Kさんがどのようにして「母親への想い」と向き合い、最終的にどのような成長を遂げたのかをお伝えします。

 

 

初対面では明るく振る舞うKさんの本当の心

Kさんには、初対面の人とも気兼ねなく話せる一面がありました。

 

どんな人ともフレンドリーに接し、笑顔を絶やさない姿は、一見すると「社交的で明るい女性」に見えました。しかし、その裏では、「本当の自分を見せるのが怖い」「素の自分を知られたら嫌われるのではないか」という強い不安を抱えていました。

 

そんな彼女は、演技性パーソナリティ障害を併発した時期もありました。(精神科医の診断)

 

周囲の注目を集めることで自分の存在を確認しようとし、ときには感情を誇張して表現することもありました。

 

しかし、それは本当の安心感とは違い、一時的に心の穴を埋める手段に過ぎませんでした。

 

 

声が出なくなり、時間が止まったように感じた日々

JECセンターでの生活の中で、Kさんは何度も自分自身と向き合うことを求められました。

 

その過程で、強いストレスや不安を感じると、突然声が出なくなることがありました

 

また、夜になると「明日が来るのが怖い」と感じ、眠ることに対して強い恐怖を抱くこともありました。

 

彼女にとって、時間が止まったような感覚が続くことは苦痛であり、「このまま変われないのではないか」と思うこともありました。

 

しかし、そのたびにスタッフが寄り添い、「大丈夫、ここにいていいんだよ」と声をかけ続けました。

 

 

「ありのままの自分でもいい」と思えた瞬間

JECセンターでの生活も10ヶ月が経つ頃、Kさんの心は大きく変わり始めました。

 

今まで「本当の自分を出したら嫌われる」と思っていたKさんでしたが、スタッフや仲間との関わりの中で、「自分を作らなくても受け入れてもらえる」と感じる瞬間が増えていきました。

 

そして、少しずつありのままの自分でいるのもいいかなと思えるようになったのです。

 

この変化は、Kさんにとってとても大きなものでした。

 

幼い頃から感じていた「母親に甘えたかった」という思いが、スタッフとの関わりを通じて少しずつ癒されていったのです。

 

 

自分のペースで生きることを学び、一人暮らしへ

JECセンターを卒業した後、Kさんは一人暮らしを始める決意をしました

 

以前の彼女なら、「一人になるのが怖い」「誰かにそばにいてほしい」と感じていたかもしれません。

 

しかし、JECセンターでの生活を通して、「自分のペースで生きることの大切さ」を学んでいました。

 

また、新しい環境で生活を始めたKさんには、支えてくれるパートナーもできました

 

恋愛に対しても、「どうせ捨てられる」「本当の自分を見せたら終わる」といった思い込みが強かった彼女ですが、少しずつ相手を信じることができるようになっていました。

 

 

「自分らしく生きていく」ことを選んだKさん

KさんがJECセンターに入所した当初は、自傷行為やパニック発作を繰り返し、未来に希望を持てない状態でした。

 

しかし、スタッフの支えの中で、「私は私のままでいいんだ」と少しずつ思えるようになりました。

 

そして、「自分の人生を生きていこう」と決意し、新たな一歩を踏み出したのです。

 

パーソナリティ障害の克服には時間がかかりますが、大切なのは「一人ではなく、支えてくれる人がいる」という安心感です。

 

Kさんの物語は、同じように苦しむ多くの女性たちにとって、一筋の光となるかもしれません。

 

*本コラムは、20年以上に及ぶパーソナリティ障害の回復実績を持つ

元臨床心理士(現:施設顧問)佐藤矢市が考案した”心理休養”に基づいています。

 

 

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