皆さん、こんにちは。

今回より佐藤矢市先生の「パーソナリティ障害の回復には決断と見守る連携が必要」をテーマにシリーズ展開して参ります。

第1回目は、パーソナリティ障害支援センターにおける回復のプロセスをご紹介して参ります。

回復までの過程が知りたい当事者たち

パーソナリティ障害支援センターでは、これまで多くの研修生たちが卒業され、社会に羽ばたいていかれました。

日々問い合わせを受ける中で、「どのくらいの期間で回復していくのでしょうか?」「何が回復の目安なのでしょうか?」といった質問を、直接ご家族や本人から受けることがあります。

長年、多くの研修生たちと寄り添い続けてきた中で、回復パターンにはある一定の基準があることが分かってきました。

参考までに、当センターの当事者(研修生)に多く見られる回復パターンについて解説していきます。

「初期(混乱期)」 ~不安定で迷いが多い時期~

この時期は、入所を開始してから2~3か月間を指します。
まず、研修生は環境の変化の影響から高い不安状態に陥ります。

今まで体験したことのない、自分の全てを認め、受け入れてくれる環境に戸惑いを感じ、「ここはどんな施設で、どんな所だろう?」、「どんな人たちがいるのだろう?」、「他の人たち(研修生)とうまくやっていけるだろうか?」などと、不安を抱きます。

同時に、当センターやスタッフが本当に信頼するに値するのか、あるいは見捨てられるのではないかといった半信半疑な思いも抱いていきます。

この不安な状態は、研修生の「不安耐性(不安に耐える力)」という心の機能を見立てる時期でもあります。

自由な環境で、一人一人が尊重されているという今までにない体験だからこそ、強い不安や焦りが生じるのです。

中には、「こんなところに居られない!もう家に帰らせてくれ!」などと親に連絡を入れ、退所を訴える方も少なくありません。

この時に、我々スタッフがどのように対応してくるのかということや、連絡をもらった親の対応を、研修生たちはよく観察しています。

一方で、不安の原因には、「寂しさ、甘えたい・・・」があることを一緒に見つめる支援が続けられます。

心配が強い保護者の言葉や、共依存の場合に、研修生の「治そう」の気持ちがゆるんでくるのですが、この時に親が覚悟を決めて、我が子を「突っぱねられるか」が問われてきます。

我々スタッフも含め、家族も真剣に・誠実に研修生に向き合い続けるという一貫した姿勢が、不安に押しつぶされそうになっている研修生に伝わると、徐々に落ち着きを取り戻していき、この混乱期を乗り切っていけるようになるのです。

こうして不安な状態から周囲を試す段階を乗り越えていくと、研修生は、スタッフや他の研修生たちに少しずつ信頼を置くようになり、次の段階へと移っていきます。

「中期」 ~安心感を持ち始める時期~

この時期は、当センターの雰囲気や人間関係にも慣れ始め、少しずつ安心感を持ち始める頃です(~約6か月から1年が目安)。

家族のしがらみから解放され、心が楽になり、明るい表情が多くなってきます。

そして「問題の根本は何なのか?」ということに疑問を持ち始め、その対応について少しずつ考え始めるようになります。

この段階は、パーソナリティ障害者の中核部分である「見捨てられ抑うつ」を扱う段階でもあります(心の深い部分)。

研修生は、安心した環境の中で、自分の様々な感情や葛藤、体験を活発に語るようになります。

それを繰り返し受け止め、自分と向き合うことで、研修生の洞察(気づき)を徐々に深めていくのですが、この支援こそが当センターの専門領域なのです。

これらを何度も何度も繰り返すことで、「見捨てられ抑うつ」の根っこが、母親や周囲の重要な人物との関係にあり、幼い頃の体験と結びついていることに気づくようになります。

そして、自分の過去が全てネガティブな側面だけでなくポジティブな側面もあったということにも気づき、幼い頃の体験や、親との関係を受け入れ直していくのです。

この時、保護者は長く見守り続け、回復できると信じる心構えが必要となってくるのです。

確実に回復へと導くために、我々スタッフのような協力機関と共に歩んでいく道をおすすめします

こうして傷ついた体験を乗り越えられると、とらわれから解放され、自由になっていきます。

この時期の特徴は、今まで過去や親子関係に費やされていた多大な精神的エネルギーが、自分自身の為や、自立に向けて使えるようになってくるという点です。

この頃より、アルバイトなどを取り入れ、就労活動も少しずつ始まっていきます。

「卒業」 ~自我の芽生えと自立へ~

「みんなの協力があり、自分は一人で生きているのではない」と、感謝の気持ちや、社会性における自己存在感を持てるように変化していきます。

この時期は、自我の芽生えとともに、自分で自分を支えることができるようになっていきます。

そして、「自分が社会でどの程度受け入れられるのか?」、「どの程度やっていけるのか?」など、試したい気持ちが自然と出てきます。

自分から気づいていく心が成長していきます。

また、周囲や他人の評価に左右されるのではなく、自分を軸として色々なことを考え、取り組み、そして純粋に楽しめるようになります。

対人関係においても、自分と他人の間に適度な境界線を引けるようになってくるので、「人は人、自分は自分」という発想で他人と付き合えるようになってきます。

当然、周囲との比較も少なくなってくるので、生きるのが楽になってきます。

だからと言って、自分一人で頑張り続けるのではなく、必要な時には適度に周囲を頼ることができるなどのバランス感覚も身に付いてくるのです。

当センターのような自由で、安心できる環境の中で、信じてもらい続けながら、自分が本来持っているバランスのとれた姿に戻っていかれるのです。

まとめ

以上が当センターにおけるパーソナリティ障害の回復プロセスとなります。

このシリーズは20回を企画しておりますので、回復を心より願っている方なら、ぜひ一緒に読み進めていただいて、パーソナリティ障害の心の奥に潜む「マグマ」のような何かを見つけ、理解を深めてみてください。

きっと何かのきっかけ(気づき)になるはずです。