皆さん、こんにちは。

佐藤矢市先生の「パーソナリティ障害の回復には決断と見守る連携が必要」シリーズ第10回目となります。

今回は、ご家族から多く寄せられる質問の中でも、「どうしてこのような子どもになってしまったのか?成育歴や母子関係に問題があったのか知りたい・・」という質問に焦点を当ててご説明して参ります。

犯人捜しは何の解決にもならない

親の立場で反省もあるでしょうが、今の彼らにとって本当に必要で、考えなければならないことは、「因果論」ではありません。

「どういう原因があってこういう結果になったのか?」という発想は、現代科学的な発想だと思いますが、人間の心を考えようとした時にこの「因果論」を当てはめてしまうとうまくいかないものです。

仮に犯人捜しをして、「お母さんが悪かったから」とか「家庭環境が悪い」や「兄弟が家庭内暴力だったからだ」などと結論付けてしまって、なんとなくわかったような気でいても、実際には何の解決にも至っていないということがしばしばあります。

一番大事なことは、子どもがとんでもない行動をとっていたとしても、その子は「本当は何をしたいのか?」「何を望んでいるのか?」について考えるということなのです。

結局、本当にしたいことができなかったり、わからなかったりした結果として、様々な問題行動へとつながっているのです。

自分が自分らしくいられない葛藤があるとか、もう少し言えば、「本当に自分が自分らしくなるために、お母さんを殴っている」のです。

なかなか子どもの心理を理解するのは難しいかもしれません。

子どもから殴られ、蹴られ、暴言を吐かれている時などは、特に彼らの心を理解しようとすることは困難であり、何より、自分たちの身を守ることで精いっぱいです。

数々の問題行動を繰り返し、周囲を振り回している子どもたちの多くは、「自分の苦しさを分かってほしい。この世の苦しみから解放されたい。今の自分をそのまま受け入れてほしい。もっと自分の頑張りを認めてほしい。」と願っているのです。

本当に求めているものは何か?

私は、子ども達と面接する際に、「どうしたらあなたらしくなれるのか?どうしたらあなたらしい人生を送れるのか?それを真剣に考えていきましょう。」とお伝えします。

犯人捜しのようなことは、できるだけやらないようにしています。

もちろん、過去の親子関係や、家族構成、病理やキャリアについては当然押さえておきますが、「誰が悪い。こんなことがあっったからこうなった」などのように因果論を追及し続けるようなことはしません。

人間というのは必ず「何かを求めて生きている」のです。

例えば、あるボーダーライン(境界性パーソナリティ障害)の女性は、摂食障害から始まり、SEX依存、恋愛依存、クレプトマニア(窃盗症)、自傷行為などの数々の依存行動を繰り返していましたが、彼女が最終的に一番求めていたものは、高価な物でも、特別な異性でも、仕事の業績や地位でもなく、母親からの「お前はそのままでいいよ」という言葉だったのです。

一緒に探していく

彼らと一緒に生活し、接している中での私の一番の楽しみは、彼らが「本当に求めているもの」をぱっと捕まえてあげて、それをご両親と共有していくことです。

特にパーソナリティ障害の方たちと接する時は、この「本当に求めていること」を捕まえることは至難の業ですが、私にとって、とてもわくわくさせてくれるやりがいを感じる仕事でもあるのです。

今、彼らは生きづらさを感じているかもしれませんが、実は本来持っている強いエネルギーがあり、「的(まと)」にはまれば途方もない実力を発揮できるのだということを信じてあげてください。

彼らが実力を発揮するためにも、周囲が理解し、協力して支えていくことがとても大切です。

それができたなら、きっと肩を並べて喜び合い、笑い合える人生が訪れることでしょう。