皆さん、こんにちは。

シリーズブログ「家庭内暴力からの成功例」は、当施設のこれまでの解決実績を元に、子どもの深層心理を知ることによって見えてくる、真の原因や対処方法などについてご紹介していくものです。

家庭内暴力に苦しんでいるご家族に、少しでも希望を持っていただけるような情報を提供して参ります。

第5回目は、家庭内暴力が起こってしまう一つの原因である社会的な不安や焦りについて解説しつつ、その過程から見えてくる子どもの心理状態の移り変わりを見てみましょう。

大人になれない子ども

家庭内暴力は放っておくと悪化するということはこれまでも説明してきましたが、30歳をピークに暴力が沈静化していくといったケースもありました。

しかし、これは子どもが抱えた根本的な問題が解決したわけでもなく、ましてや回復の兆候でもなんでもありません。

まず知っておいて欲しいことの一つに、たいていの子どもは「自分もある程度の年齢を重ねれば勝手に大人になっていくものだ」と思っているということです。

20歳になれば成人して、学校を卒業したら就職してお金を稼いで、様々な人との出会いの中でパートナーを見つけて結婚し、自分の家族やマイホームを持って幸せに暮らす。

誰でも一度は子どもの時にこんなイメージを思い描いたことがあるはずです。

ただ、これはあくまで「理想」でしかなく、現実は何もかもが順調にこの通りいくものではありません。

子どもに相応の意識や責任感が備わり、行動が伴わなければ、いつまでも大人と認められる存在にはなり得ないからです。

親側も、子どもが10代や20代のうちは「まだ年齢的にもこんなものか」とタカをくくっていたのでは、子どもが大人になるための成長を手助けすることにはなりません。

そうこうしているうちに、子どもは自分の同世代たちが着実に大人へと成長していることを思い知らされます。

この時、なんだか自分だけが取り残されてしまったような感覚に襲われ、焦りを覚え始めるようになります。

中には、強い不安や焦りの影響でイラ立ちを覚えたり、自信喪失や対人恐怖になったりして、次第に学校や仕事に行けなくなり、果ては社会そのものから遠ざかっていってしまう子どもたちがいます。

この状態の子どもたちを、世間では「ひきこもり」や「ニート」と呼んでいます。

ずっと家に閉じこもり続けていると、人は健全な精神状態ではいられなくなってしまうものです。

やがて行き場のない負の感情が蓄積し、それが母親などの立場の弱い者に向けられると「家庭内暴力」へと発展してしまいます。

そのまま子どもが30歳を迎える頃になると、「自分の人生は終わっているもうダメなんだといった風に、人生を諦めてしまったような考えが芽生えてしまうこともあります

このネガティブな思考回路に支配されてしまうと、もう以前のように家で荒れ狂っていたエネルギーさえ湧いてこなくなるので、結果として家庭内暴力は身を潜めていくのでしょう。

親としては、怖くて仕方なかった暴力が止んでくれてホッと一安心といった心境かもしれませんが、子どもの状態はむしろ更に悪化していると言えます。

なぜなら人生に希望を見いだせなくなってしまった子どもが辿る末路は、総じて悲惨なものだからです。

卒業生の言葉

当施設では家庭内暴力はもちろん、ひきこもりやニートが長期化してしまっているケースにも数多く対応してきました。

そのほとんどの対象者は年齢の割にどこか精神的な幼さを抱え、大人になり切れていないと感じさせる子どもたちばかりでした。

当施設の卒業生の中にも、前述したような状態で入所され、数多くの体験を経て、見事社会復帰を成し遂げた女性がいます。

その卒業生からいただいたメッセージの中から、今回のテーマについて非常に考えさせられる部分が多々あると感じましたので、ご紹介したいと思います。

※本人の同意の元、個人の特定がなされないよう一部内容を修正してご紹介しています。

『私は対人恐怖もあって家にひきこもっていた期間が長く、医者からはパーソナリティ障害との診断も受けました。親に何か言われるたびにイラっとして暴言を言ってしまったり、手をあげてしまうこともありました。親も困り果てたのか、私を施設へ入所させることに決めました。もちろん私は最初とても嫌がって猛反対しましたが、施設の方に説得されて、しぶしぶ入所することになりました。最初はとても不安で落ち着かなくて、何度も家に帰りたいと泣きましたが、何ヶ月か過ぎた頃にはだんだんと気持ちも落ち着いてきて、同じ利用者の仲間やスタッフさんとも話をたくさんするようになりました。私の愚痴や不安に思っていることを長時間付き合って聞いてもらうと、決まって最後に「話してくれてありがとう」と感謝されました。何で感謝されるのだろうと最初は不思議に思っていましたが、ちょっぴり嬉しいとも感じました。そんなことを続けているうちに、自分を否定していることや、受け入れないことが不安や苦しみの原因なんだということに気づき、自分を認めてあげようと思えるようになっていきました。そうしたらあれだけ苦手だった対人関係もなんとかなってしまったり、家族のこともだんだん許せるように変わっていく自分に驚きました。どうしても苦しい時は処方された薬に頼った時期もあったけど、今はなくても平気でいられます。思い返してみれば、感謝するということを覚えてから私は変わっていったように感じます。仕事もできるくらい調子も良くなり、家では家族とも一緒に問題なく過ごせています。一人ではどうしようもなかったけど、みんなと関わって色んなことに気づくことで変われたということを、私と同じ悩みで苦しんでいるみんなにも知ってもらえたらと思います。』

詳細は割愛させていただきましたが、彼女は過去に家庭や学校での辛い体験から、トラウマを抱えてしまいました。

そんな彼女の心にたくさんの人たちが働きかけ、自分を認め、人に感謝できる気持ちを持てるようになれたことが、一番の薬になったのではないかと思っています。

彼女は今もパーソナリティ障害が消えてなくなったわけではありませんが、立派に大人として、社会で奮闘しながら人生を前向きに歩んでいます。