皆さん、こんにちは。

佐藤矢市先生の「パーソナリティ障害の回復には決断と見守る連携が必要」シリーズ第9回目となります。

今回は、万引きと摂食障害を併存している境界性パーソナリティ障害を持つAさん(30代女性:既婚:子ども一人)の心理を、本人の同意の元、分析していきたいと思います。

※Aさんの特定がされないよう、個人情報は一部修正しています。

破壊的な感情の裏にあるもの ~変化のチャンス~

Aさんは、親に対して激しい憎しみと恨みを抱えていました。

しかしもう一方では、そんな感情を抱いてしまう自分を受け入れられず、常に葛藤しながら、気が付くと、両親に手を上げてはそんな自分を反省するということの繰り返しでした。

親を攻撃しないようにすればするほど、自分の心の中に言葉にならない感情が溜まってしまい、自分がどんどん壊れていってしまったと言います。

Aさんは、私との面接場面で、「もうこれ以上自分を責め続けていくわけにはいかない・・・彼らは私にとって親であり、今まで世話になったこともたくさんあったし、それを分かっていたから、私はここまで自分を追いつめて我慢し続けてきた。本当は親の笑顔を見たかっただけなのに・・・でも、もうこれ以上は心も体ももたない。」
と、涙ながらに訴えたのでした。

Aさんの父親は家族のいざこざから酒へと逃れ、母親はAさんを愚痴のはけ口として『母子密着カプセル化』をはかっていったのです。

その結果、完璧主義と強迫性が身に付いてしまったAさんの行動は、いつの間にか攻撃性の強い人間となり、彼女の心の中には、他者への恨みや妬み、そして強い怒りや敵意を抱くようになってしまったのです。

そして、周囲の物や自身の人間関係を、全て壊そうとしてしまったのです。

ついには、孤独で、全ての人に対して強い恐怖心と見捨てられ不安を抱くようになり、本当の自分を見せないように演じることが多くなっていきました。

これを「偽りの自己」と言いますが、彼女の場合、この偽りの自分が「攻撃性のある人間」だったのです。

私のもとへ訪れた時には、もう自分も他人も信じられなくなり、最後はお金と物しか残っていない状態でした。

当然、残されたお金や物に執着していくので、それらが少なくなっていくと激しいパニックを起こし、周囲を責め立てていきます(お金や物が愛情であるという歪んだ思い込みがありました)。

「現実から逃げたいけど、どうしたら楽になれるのか」とか、「どうしたら無になれるのか」ということを無我夢中で捜し求めた結果、一時的に辿り着いた方法が、過食と万引き、自傷行為、家庭内暴力だったのです。

そして、徐々にそれらの行動の深みにはまっていってしまったのです。

憎しみと愛は表裏一体 ~葛藤の末に掴んだ結果~

Aさんのように、親に対して激しい愛情欲求と強い憎しみを抱き、葛藤している方々の中には、パーソナリティ障害を発症しているケースも少なくありません。

Aさんはその後、当センターでの生活の中で、ある時期は数々の激しい攻撃性を表したりもしましたが、様々な経験を積み、時間の経過とともに、親との関係性を冷静かつ客観的に振り返ることができるようになっていったのです。

攻撃性というある意味エネルギッシュな一面を持っていたAさんは、そのエネルギーを仕事という適切な方向へと発散(昇華)出来るようになり、また、強迫的な傾向を生かし、「会計事務所」という細かなミスが許されない職場で、完璧主義を存分に発揮し、健全に生かし切っています。

余談ですが、Aさんの勤める会計事務所で、計算の正確さやスピードでAさんの右に出るものはいないと噂されるほどの評判でした。

このように、「活かしたい」という願いを持てれば、個性を発揮できる環境は必ず見つけることができるのです。

今現在も悩みを抱えて、この記事に目を通してくれた方がいらっしゃったとしたなら、次のメッセージを送りたいと思います。

「あなたが願うなら、活躍できる順番はきっと巡ってきます。一緒に信じて前進していきましょう。」