1c9ea34d21efdb20cb59557b8aca14ce_s今回は、久しぶりに体験者のことばを紹介しながら、社会復帰までのプロセスを見ていきたいと思います。

今回の体験者は、当時20代後半のうつ病・強迫性パーソナリティ障害の男性です。

彼は、当センターに入所した当初は、ポーカーフェイスで、いつも笑顔を絶やさず、誰に対しても良い子を演じていました。

しかし、そんなポーカーフェイスの裏では、強い攻撃性が自分へ向かい、「このままではいけない・・・死んだ方がましだ」と毎晩母親に連絡をしては、母親を困らせていました。

当初の彼にとって、自分の素を出せる相手が、母親しかいなかったのです。

母親に対しては、「死にたい・・・こんな事をしていてはダメだ」と本心を訴え続けることができたのですが、他人にはそれがまったく出来ませんでした。

実際、彼は「~ねばならない」という強迫観念に支配されていたので、センター入所が始まっても、ゆっくりと休むことが出来ませんでした。

ゆっくりとくつろいでいると、罪悪感が出てきて、「このままではいけないんではないか」と不安になっていたと後に訴えていました。

そんな彼が、実際にセンターに入所した期間は、約4ヶ月でしたが、その経緯をたどっていくと、どのくらいの時期に、どのような変化が生まれ、社会に復帰していくまでに回復できたのかが分かります。

尚、彼の同意の元、個人情報が特定できないよう修正は加えてあります。

以下、彼が社会復帰後に実際に語った言葉です。

体験者のことば

『最初の1、2ヶ月は「早く良くならなきゃ」という焦りがものすごくある一方で、メンタル的には、「勉強とか仕事など将来に関わることは何もしたくない」という状態でした。

でも気を紛らわすために、いつも何かしていないと落ち着かない自分がいました。

センターに来ても「自分は元気、明るい、“大丈夫”なんだよ」とできるだけ自分をよく見せようと、演じていました

自分の悩んでいることが言えなかった。

言ってしまうと、トラウマとなった経験を思い出して辛いから、触れないようにしていたのだと思います。

2ヶ月目に入った頃、自分に対してつっこんで話を聞いてくる先生に戸惑いがあったが、少しずつ話が出来るようになってきた。

同じ研修生に対しても自分の辛かった経験を話せるようになった。

c92414f1fa64e0cc3482cf8baa646d2e_sそれまで、「話す」ということは自分にとって悩みを解決するものでなく、何も変わらないからムダで、相手に時間を取らせるだけ、という風に思っていましたが、話すことで自分を客観的に見れ、自分の経験した辛さを自分の言葉で伝える過程で、何が辛かったのか、どういう場面で辛かったのか、などが理解できることに気がつきました。

そして、自分が凄く辛いと思っていた経験が実はそんなに大事ではないのかな~と思えた。

自分の中で重くのしかかっていた経験を過大評価していたことに気づけた。

振り返ってみると今までの人生でも小さな失敗はあったし、今回は凄く大きな失敗だったけど、実はそんなに大差ないのかな、と自分で気づけたことで気持ちがラクになりました。

3ヶ月以降は、センターの人全般に対して、自分の深いところを話すことができるようになり、共感してもらえました。

外部の友だちは辛い経験をしていないので分かってもらえないが、ここでは理解してもらえたから、話しやすかったし、辛いのは自分だけだと思っていたことは違うんだなと思えました。

そのころから、「働く意欲もないし、自分のできる仕事なんてない」という気持ちから、「何かやりたい」という意欲が出てきた。

「自分のことで迷惑かけられない」という思いがあり、周囲に対して自分の言動を気にしすぎて、行動にうつせない自分だったが、「失敗するのが怖い。どうせ失敗するんだから」などと思わなくなりました。

自分の話を聞いてくれる人がいるというのはとても大きい。

何かあっても聞いてもらえるというのが安心となって、踏み出す力になったと思います。

4ヶ月目になると、自分の経験などを気楽に話せるようになっていき、実際に働いてみようという気になりました。

介護施設でアルバイトの話があったので思い切ってチャレンジすることに決めました。

職場で何かあったらすぐに話を聞いてもらえるという安心感もあって、先生やスタッフの理解のもと晴れて退所することになりました。

今アルバイトを始めて1ヶ月以上経ちます。

休みの日には、センターに来てスポーツセラピーや話をさせてもらっています』

という体験者からのことばでした。

彼は現在定職に就き、もう数年間同じ職場に勤務できています。

話を聞いてもらえるという安心感

これは一つのストーリーなので、皆さんが同じプロセスを取るとは限りません。

d84740fe17a00f5e31e6f42349fbcf06_sしかし、彼のことばにもあったように、自分の心の内を誰かに話して、聞いてもらえる体験が、当たり前のようですが、とても重要なプロセスであったことが理解できます。

辛く苦しい体験というのは、誰にも話さず心の中にとどめておくと、雨で濡れた落ち葉のように、重くなってしまい、動かすことができません。

しかし、少しずつ自分の辛い体験などを話して、誰かに聞いて貰える体験を繰り返していくと、濡れ落ち葉が徐々に乾いてきて、風が吹いただけでフワッーと飛ぶようになり、以前のような苦しい体験が浄化されてラクになっていくわけです。

そんな体験を彼は経験したのでしょう。